第16話


 その鮫肌さめはだのような感触に、由香里は、ひえっ、と手を引っ込めた。壁一面にブツブツが吹き出してきた……。ゾワッと鳥肌とりはだが立つ。気持ち悪い。

 隙間すきまのない壁のどこからかドロリと流れ出てきた白いペンキが、ブツブツをのみ込みつぶしツルツルに修復してゆく……。不気味。

 由香里の右手首の包帯がほどけて落ちた。真っ白な床の上、生成色きなりいろの包帯が足元をまるかこう。

 かすかな音がした。

 まるで卵のからが割れるように、白い壁の表面にヒビが入り、割れてがれて……中から黒い小さな毛虫がぞろぞろとい出てきた……。ぞろぞろうぞうぞうじゃうじゃ毛虫が部屋中をもじゃもじゃわじゃわじゃ這い回りおごめいた。壁も床も天井もびっしりと黒い毛虫でおおわれた。

 毛虫で真っ黒になった部屋の中、包帯の円に囲まれた由香里の足元だけが白い。

 黒い毛虫はうぞもぞうごめき重なりつながって……黒い文字になってゆく……。壁も床も天井もびっしりと黒い小さな文字で埋め尽くされた。

【さびしい……カナシイ……ひとりぼっち……輪の中に入れない……居場所がない……見えない壁……ヒソヒソ……嘲笑ちょうしょう……会話が続かない……シラケル……わからない……フルボッコ……仲間はずれ……シカト……疎外そがい……わたしだけチガウ……異物……異星人……寂しい……むなしい……からっぽ……寒い……冷たい……わかってほしい……怒られる……こわい……ムシ……イヤ……嫌われてる……憎まれてる…………どうして……全否定……サビシイ……悲しい……ひとり……】

 黒い文字は泣いていた。


 



 

 

 

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