第15話

 由香里は部屋を見回した。

 ドアも窓も照明も、ベッドすらない。ただただ白く輝く石造いしづくり。女神の宮殿。

 女神はこんなところに住んでいて、心健こころすこやかにいられたのだろうか? それとも女神が来てから家具をそろえるのだろうか? それならいいのだけれど……。でも何となく、んだような空気がただよっている気がするのは、気のせいだろうか……。

 目が覚めたら異世界で訳もわからずツガイモに抱かれ、この真っ白な宮殿でその生涯を閉じた女神達。その中で、この世界に馴染なじめた者が、何人いたのだろう?

 モルモフという未知の世界を、ドキドキワクワク冒険した者が。女神という逆ハーレム、ツガイモという男達を見取みどり、モテ到来とうらい、喜んで、女性を謳歌おうかした者が。ツガイモの中から運命の人を見つけて相思相愛そうしそうあい末長すえながくラブラブとロマンチックで幸福な生涯しょうがいを送った者が、はたしていたのだろうか。

 由香里自身は脱走して、チャラ男とアイリスに助けられ、ベッドの上で血を吐いて死んだはず。それがなぜ、透けた体でここにいる?

 この白い部屋は女神の墓場? 死んでなおここに閉じ込められ、白くつぶされて、部屋の一部になるのだろうか……。

 そんなわけないな。

 由香里はあたまを振って暗い想像を払いのけた。ただ単に、死出しでの旅の途中で道に迷っただけのこと。オオカミもヘビも男もそれはみな、通りすがりのただの夢。方向音痴ほうこうおんちり道も今に始まったことじゃない。

 ここを出て、シマと祖父じいちゃん祖母ばあちゃんに会いに行こう!

 ところがどんなに探しても、出口もとびらも見つからない。消えたドアも現れない。

 かたくてんやりした壁は、真ったいらのツルッツル。割れ目どころか、わずかな凹凸おうとつすらない。ためしに爪を立ててみたら、音もせず爪はツルンと壁をすべり落ちてしまった。これでははえまれない。

 その壁が、不意にザラリと変化した。



 

 

 

 

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