第14話

 気がつくと、由香里は白い部屋の中にいた。

 何故なぜか体がけている。でも浮いているわけでもないし、裸足はだしの裏には冷たくかたい床の感触もある。身に着けているのは死装束しにしょうぞく、ではなくて白いTシャツ。……幽霊になったわけではないらしい。なりかけてるのかもしれないけれど。

 体中、痛くはないけど包帯だらけ。幽霊というよりゾンビかも。右手首の包帯が、半分ほどけてれ下がっていたので巻きなおそうとした時、人の話し声がした。

 由香里は驚いて飛びがり、背中が壁に当たった。

 この体、壁の通り抜けはできないらしい。ただ無駄むだに透けてるだけで、相手からも姿がはっきり見える可能性大。困ったな。身をかくす場所もないので仕方しかたなく由香里は壁にはりついた。

 声のする方に目をやると、裸の男が三人、壁の修復作業をしていた……。三人とも見覚えがある。壊れた壁にも身に覚えがあった。

「あの女は頭がおかしい!」

 一人が怒鳴った。

「ここは女神の宮殿きゅうでんだぞ! 女神は生涯しょうがいここでツガイモに抱かれて暮らすんだ。その神聖な場所を壊したあの女は、女神失格だ! あの生意気なウサギは食ってやる」

 怒鳴り男はそう言うと、おおかみの姿になってペロリと舌なめずりをした。

「ウサギは食うな」

 二人目は命令口調。

「あれはツガイモだ。殺すな。それと、これはわかっていると思うが、間違っても、勢い余って女神を殺してしまった、なんて事のないように」

「なんだテメーは! 偉そうに。やんのかオラー!」

 狼が吠えると、命令男はヘビになった。大蛇だいじゃだ。

「まぁまぁ、そうカッカしないで。二人とも、きばをおさめてよ」

 三人目が割って入った。

「彼女はもう死んでるよ。宮殿の外に出たんだから。ウサギも今ごろ石になってるんじゃないかな。君たち二人も、ケンカするなら外でやってくれないかな。それともここで静かに次の女神を待つか。どちらかを選んでよ」

 うなる狼、かま首をもたげるヘビ、裸の男がにらみ合う。

 由香里は口を押さえた。声をむ。

 どうなってるの⁉ 人がヘビと狼に⁉ ザーザー音が聞こえない。なぜか言葉が聞き取れる。そういえばアイリスが、半人がどうとか言ってたっけ……。でも今は、そんな事より逃げる事。問題は、どうやって?

 逃げ道を探す由香里。その手が不意ふいに、ドアノブに触れた。

 ドアの向こうに飛び込むと、そこもまた白い部屋。由香里の後ろで音もなく、ドアが消えた。



 

 

 


 

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