第13話

 ケホッ。せきが出た。

 ずっとかすかに聞こえていた耳鳴りのボリュームが、急に上がった。キュイーーン!

 ずっとのどをザラザラとこすりあげていた空気が、いきなり気管きかんに爪を立て、一気に切り裂いた。音量MAXの耳鳴りをBGMに、とうの咳込みラッシュに突入とつにゅうした。ゲホゲホゲボ!

 まぶたの裏でいくつもの星が爆発し、白いシーツに点々と赤い花びらのような血が飛び散った。全身の骨が筋肉がギシギチと音を立てた。

 体が内側からこわれてゆく。

 筋肉がブチブチと引き千切ちぎれ、骨がペキンパキンと割れてくだけた。空気のやいばが肺を切りきざみ、目の奥に赤いペンキが飛び散って何も見えなくなった。内臓がたたつぶされ、ぐちゃぐちゃにかき回されて、お腹の中がけてドロドロになってしまった。

 うすれゆく意識の中で、ふわりとほほにやわらかなアズキの毛がれた。アズキのぬくもりに包まれて……由香里はふわりと意識を手放した。


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