第11話

 由香里は二十歳の時に、猫のシマと祖父母をくしてひとりになった。

 平日は仕事、家に帰ってテレビみて漫画、スマホ、本読んで。休日はひとり旅。由香里は独り暮らしを楽しんだ。

 そんな静かなぼっち暮らしが、アズキで一変いっぺんした。

 ウサギは黙々もくもくと草を食べてる大人おとなしい動物だと思っていのに、全然違った。

 アズキはニンジンに見向みむきもしない。甘党あまとうで、バナナとイチゴとジャムが大好き。足元をグルグル走り回る。プゥプゥと鼻歌を歌う。テンションが上がると飛び跳ねる。垂直にジャンプして、空中回転ひねり技!

 猫のように体をめてきれいにし、顔を洗う。女性が長い髪を洗うように、ウサギは耳を両手ではさんで洗う。でもいかんせんアズキは前足が短すぎた。どんなに手を伸ばしても首を折れそうなぐらい曲げても、頭に手が届かない。鼻の頭とほっぺた、耳は半分から先っぽまでしか洗えてないことに、アズキは気づいているのだろうか?

 夜は布団の中に入ってきて一緒に寝る。びをして、おちょぼ口であくびする。ウサギがこんなにかわいいなんて! 予想を上回るかわいさに、由香里はアズキにメロメロになった。

 そしてアズキはエロウサギだった。

 あれはマウンティングというより、ただのドスケベだと思う。毎日毎日、朝から晩まできもせず、ぬいぐるみにおおいかぶさって腰を振る。あれを見るたびに由香里はドン引きする。オスって奴は……。

 アズキの一日は、食う寝る腰振る。食べた栄養の全てが下半身で使われているとしか思えない、陽気ようきでおバカなエロウサギ。

 小豆色あずきいろのボロ雑巾ぞうきんみたいな毛は生えかわり、つややかなオレンジ色のやわらかな毛になった。骨と皮だった小さな体も丸々と大きくなった。アズキは、むっちりぽっちゃりずっしりの、ふわふわ毛玉に成長した。

 由香里はアズキと過ごす時間が増え、TVも読書も減った。旅行もやめた。休日は一日中家で、アズキとまったり過ごした。

 それまでのぼっち暮らしの静けさが、さびしさだったということに、アズキと暮らして初めて気づいた。

 

 

 



 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る