第9話

「アズキ!」

 由香里は転げるようにった。アズキが腕の中に飛び込んでくる。

「良かった、無事で」

 アズキはケガもなく元気そうだった。アズキの頭から背中をなでると、アズキは気持ち良さそうに目を細め、ショリショリと奥歯をこすり合わせた。猫が喉を鳴らすようにウサギは歯をこすりあわせる。

 安心した拍子ひょうしに意識が遠退とおのきそうになる……。由香里はあわてて意識をつかんで引き戻した。気を抜いてはいけない。ツガイモから身を守るために、意識をしっかり持っていなければ。具合が悪いことに気づかれてはならない。

「アズキ、どこから入ってきたの? あの人は?」

 由香里は、ドアも窓もない部屋の中を見回した。チャラ男の姿はどこにもない。音もなく近づいてきたチャシュが、アズキに鼻先をチョンとくっつけ、挨拶あいさつした。猫とウサギの鼻チュー。アズキもリラックスしたままだ。由香里は安心した。

 ザーザー音に振り向くと、アイリスがベッドをポンポンと叩いた。由香里はアズキを抱いてゆっくりと立ち上がると、アイリスの横に座った。由香里とアイリスの間にチャシュが座る。

「あの人はどこに行ったんでしょう? アズキを見つけてくれてありがとうございます、と伝えて下さい」

 アイリスがフリップボードを見せる。

【敬語はやめてタメ口でね

 私のことはアイリスと呼んで

 あなたのことは由香里と呼ぶわ

 アズキとはどこで会ったの?

 アズキと由香里のことを聞きたいわ】

 アイリスは青い目をかがやかせ身を乗り出して興味津々きょうみしんしん。由香里はアズキをなでながら話しはじめた。


 

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