第8話


 アイリスが由香里にフリップボードを見せた。きれいな字。

【ベッドに座って

 落ち着いて 

 アズキは見つかるわ】

 由香里はベッドに腰かけた。アイリスもとなりに腰かける。チャシュが二人の間に座った。

「あの、ここにウサギのエサ、草と水はありますか?」

 アイリスは、にっこり笑顔でうなずいた。チャシュはくつろいで座っている。

「……チャシュはウサギを食べたりします?」

 アイリスが驚いた様子でザーッと言った。チャシュもまん丸な金色の目で由香里を見上げた。

「えっと、その、前に飼ってた猫が、ウサギの毛で作ったオモチャが大好きだったから。チャシュがアズキを見たら獲物えものだと思って追いかけ回したりするのかなと……」

 アイリスはブンブンと首を振って、フリップボードを見せた。

【それはないわ

 それにチャシュも半人はんじんよ】

 なんだそりゃ⁉ 由香里は驚いて聞き返した。

「半人?」

【チャシュは猫と人、二つの姿を持ってるの

 モルモフには複数の姿を持つ者が多いのよ

 ウサギと人の姿を持つ者とかね

 人の言葉も話せるわ】

 化け猫⁉ 妖怪? 猫又ねこまた? 由香里はチャシュの尻尾しっぽを見つめたが、二又ふたまたに分かれているようには見えなかった。触ってみようか迷っていると、チャシュが口を開けた。

 チャシュの口からザーという音がした。由香里にはそれが、人の言葉なのか猫の鳴き声なのかわからなかった。

うわさをすれば】

 アイリスが指をさす。部屋のすみにアズキがいた。




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