第7話

 チャラ男がフリップボードのような物を由香里に見せた、そこにはチャラ男の手書きの文字。声がザーザー音でも字は読めた。

具合ぐあいはどう?】

 かなり悪い。息を吸うたび吐くたびに、具合が悪くなってゆく。なんて正直に答えたらツガイモが、欲情よくじょうしたはだかの男達がぞろぞろとやってそうで怖かった。由香里が答えずにいると、チャラ男はフリップボードの文字を消して書いて由香里に見せた。

【ここはモルモフ界

 彼女はアイリス(モルモフの魔女)

 猫はチャシュ(オス)

 ここに運んだのは俺

 包帯ほうたいいて服を着せたのはアイリス】

 運んだ……その時の私は裸……でも外は暗かったから、ほとんど見えなかったはず。そう思うことにして、由香里は助けてもらった礼を言って名前を名乗なのった。二人から笑顔が返ってきた。

 チャラ男が由香里にフリップボードを見せる。

【質問ある?】

 疑問しかないけど、時間がない。心残りはひとつだけ。

「ウサギを見ませんでしたか?」

 二人がポカンと口を開けた。

「あの、えーと、私の声、聞こえますか? 言葉、わかりますか?」

 二人はコクコクうなずいた。由香里には彼らの声がザーザー音にしか聞こえない。それがわかっていたからあらかじ筆談用ひつだんようのボードを用意してたのか。アズキは女神召喚のえをってモルモフに来てしまったのか。でも、もしアズキが元の世界に残っていたら……。一人暮らしのアパートの一室いっしつにウサギが一羽いちわにだな。由香里は静かに息を吐いた。苦しい。えろ、私。

「私を見つけた時、近くにウサギがいなかったですか? 大きさはこのぐらいで色はオレンジ。お腹と目の周りは白で、名前はアズキ。ウサギの体は、この世界に耐えられますか? 私がいた場所へ案内して下さい」

 ふらつきながら立ち上がる由香里を、アイリスが押し止める。アイリスとチャラ男がザーザー言っても、由香里は「アズキを探す」と言って聞かなかった。

 チャラ男が由香里にフリップボードを見せる。

【心配ないから安心して

 アズキはこの世界でも平気】

 由香里は納得なっとくしなかった。

「でも、安全? 外を走った時、石の感触かんしょくしかしなかった。土も草もなかった。この世界は、ウサギが生きられる世界ですか?」

 アイリスがザーザー言った。チャラ男は少し考えて、フリップボードを由香里に見せた。

【ここで待ってて

 俺が探して連れてくるから】

 チャラ男は、かべに現れたドアの向こうに消えた。そしてドアも消えた。

 ……えっ⁉ 今の何⁉ 由香里は目を丸くして、ドアのない壁を見つめた。




 

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