第2話

 白い壁の外は一転いってんして薄暗うすぐらかった。

 よく見えない。空気がどんより重くて苦しい。足の裏に石の感触かんしょく、腕の中にアズキのぬくもり、周囲には木々のシルエット。由香里は闇雲やみくもに走って逃げた。

 肺が苦しい……。のどが痛い……。酸素をうまく取り込めない……。足がもつれて由香里は地面に倒れ込んだ。ゼーゼーと荒い呼吸を繰り返す。心臓が肋骨の中でのたうち回っている。……起き上がれなかった。

 ふわりとほほにやわらかなアズキの毛が触れた。アズキをなでようとしたが、腕が上がらない。由香里にはもう力が残っていなかった。

 ここがどこだかわからない。薄暗くてよく見えない。男達に見つかったら逃げられない。

「アズキ、逃げて」

 薄れゆく視界の中で、オレンジ色のウサギ、アズキの姿がグニャリとゆがんで、フッと消えた。由香里は意識を失った。

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