モルモフの女神

塩田千代子

第1章 白い部屋

第1話

 ダン! ダン! ダン!

 誰かがドアをたたいている。それは、どこかで見たドラマのワンシーン。

 ダン! ダン! ダン!

 ぼんやりと明るくなってきた……。夢からめかけている……。由香里ゆかりはもう少し眠っていたかった。朝は苦手だ。

 ダン! ダン! ダン!

 どんどん明るくなってゆく……。朝日? 遮光しゃこうカーテンなのに? まぶしい。何時だろう? 手探りでスマホを探したが……何もれない。

 何だろう? 音がする……。耳障みみざわりなザーッ、ザーッという音が、途切とぎ途切とぎれに聞こえてくる。

 ダン! ダン! ダン!

 アズキの足ダンがうるさくて、よく聞こえないけど、この音は電波の悪いラジオのノイズ? 周波数しゅうはすうが合ってない。……寝る前ラジオつけたっけ?

 指先がアズキのやわらかな毛に触れた。目を開けると……なぜか視界が白一色。その中でオレンジ色のウサギ、アズキが足をみ鳴らしている。

「アズキ、どうしたの?」

 体がだるい……何か変。なんだか白くてよく見えない。のろのろと体を起こしかけ、異常に気づいて固まった。

 白い床? 布団は? ……パジャマは⁉ ここはどこ? ここは私の部屋じゃない!

 見知らぬ白い床の上に、由香里ははだかで横たわっていた……。すぐ横で、アズキが足で強く床を踏み鳴らしている。

 ダン! ダン! ダン!

 それは、危険を感じたウサギのしぐさ。不意に由香里は危険を感じた。人の気配……。

 顔を上げると男が三人。由香里は息を吸い込んだ。込み上げる恐怖を飲み込む。由香里を見下ろす男達の表情を、見るまでもなかった。裸の男達は欲情よくじょうしていた。

 ダン! ダン! ダン!

 アズキが足を踏み鳴らす。それは、仲間に危険を知らせるウサギのしぐさ。由香里は息を吐き出すと、全身の筋肉に命じた。動け! 

 自分でもおどろくほどの素早さで、由香里はアズキをひっつかみ両手でしっかりと抱きかかえると、脱兎だっとのごとく逃げ出した。本能の命じるままに全速力! 前方には白いかべ、後ろからは追手の足音がせまってくる。

 真っ白な壁に一筋ひとすじのかすかな割れ目が見えた気がした。由香里は迷わず体当たり!! その衝撃しょうげきで壁がくずれ、由香里は外へ転がり出た。

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