スクールカースト
RIISA
スクールカースト
ずっと気になっていた、レトロな雰囲気の喫茶店で、私たちは待ち合わせした。店内にはほかにも数人お客さんがいたが、各々ゆったりとした時間を過ごしているように見えた。
案内された窓側の席は、ほどよく日の光が入っていて、木製の茶色いテーブルを明るく照らしていた。
少し汗をかいたアイスレモンティーのグラス。ストローで氷を遊ばせながら、ひまりはつぶやいた。
「私ね、会社の同期の男の子と付き合ってたことがあるの。」
わたしは持っていたアイスカフェオレのグラスを置いて、ひまりを見た。
「彼はいわゆる、スクールカーストの上の方の人なんだろうなーって、思っちゃった。付き合ってるときの拭えない不安感はたぶん、彼と私とじゃ住む世界が違うって思ってたからなんだよね。」
大学を卒業して社会人になってからも、ひまりとはよく近況を話していたが、会社の人と付き合っていたのは初耳だった。
「本を読んでいて、スクールカーストの下の方にいる女の子が、クラスの男の子に話しかけられるシーンがあったんだけど、ああ、私と彼が学生のとき同じクラスだったら、きっとこうだったんだろうなっていうやりとりをしてたの。学生時代に出会っていたら、向こうは私のことなんて好きにならなかっただろうし、私も彼に対して、苦手意識を持ってただろうなって。」
ひまりは高校生のとき、あまりクラスに馴染めなかったらしい。私も中学高校と同じような経験をしたので、大学で同じサークルに入ったひまりとすぐに意気投合した。
「でも今は、スクールカーストなんてない。たとえ一人でお昼ご飯を食べてたって、話の輪の中に入れなくたって、自分が浮いているとは思わない。だから、気にせず恋愛したらいいと思う。わたしも少なからず憧れる気持ちがあったよ、スクールカーストの上の人。目立ってて明るくてキラキラしてたもん。
ただ、学校生活って色濃く自分の記憶の中に残るから、簡単に切り離せなかったりもする。そういう人は、自分と似たような、っていうのかな、いつも誰かと戯れている人より、一人で過ごしている人と恋愛したらいいと思う。」
ひまりのまつ毛が静かに揺れた。
喫茶店で会ってから半年が経った。
ひまりから「彼氏ができました」というメールを受け取り、思わず笑みがこぼれた。報告メールには、幸せそうに笑うひまりと彼の写真も添えられていた。優しい笑顔の彼は、ひまりの話でいうと"自分と似ている人"なのだろう。
「たっだいまー!」
「おかえり。飲み会終わるの、結構早かったね。」
「終電なくなる前に帰ろうって、明日仕事のヤツがいてさ、オレら優しいから!」
太陽から生まれてきたかのように明るい彼とは、最近になって同棲を始めた。
外の冷たい空気を保った彼の頭が、わたしの携帯を覗き込む。
「あ!その子が仲良しのひまりチャン?めっちゃいい写真だねー!」
「そう。かわいい子でしょ?」
「んー、かわいいけど、俺のカノジョが一番かわいいかな!」
そう言ってにこにこしながら私の顔を覗き込む彼は、おそらく自分が学生時代、スクールカーストのどこにいたかなんて気にしてないんだろうな。
彼の頬をキュッとつねった。大げさに痛がる仕草に、私は微笑んだ。
スクールカースト RIISA @riisa_
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