第3話 校舎でも

 はあ、やっと下駄箱までこれた……。

 毎日こんなの、もう嫌だよ……。

 でも転校してもおんなじなんだろうなぁ。

 しかも、今は五月の中旬。

 この時期に転向でもしようものなら、レア度があがっちゃうし。それに、中学と違ってそんなに簡単に高校は転校できないし。

 まあ、裏技使えばいけなくもないけど……。

 いや、こっちではなるべく普通に過ごすと決めているのです!

 ちょと我慢すれば多分、うまくいく!多分。

 決意と共に、靴箱を開ける。

 ズザザザザザーッ。

 白い紙が大量に落ちてきた。

 否、白い封筒の手紙だ。一部色付きのカラフルな手紙もある。

 共通していることは、ハート型のシールで留めてあることだ。

 そう、ぞくにいうラブレターだ。

 ……これ入れた人,一体何時に起きてんのかな……。今、始業三十分前の7時半なんだけど……。

 早起きすぎ……。お願いだからその情熱、他に向けてくれ……。

 ため息をつきつつ落ちたラブレターを拾う。

 仮にも、ほかの人が書いた者だからね。いくらうざいからと言え、きちんと読んで返事を書いてあげないと……。

 その間にも、遠まきながら、多くの人に見られているわけで。

 「ああ、はな様指ほっそーい」

 「今、私の手紙が華様に触れられているかもしれないっ!」

 「うれいを帯びた華様も美しい」

 ……うざい。めちゃくちゃうっとおしい。

 1人にしてくれ……。

 分かってるの。悪意も悪気もないことはわかっているの。でも、嫌なの嫌いなの鬱陶うっとうしくてうざいのよーっ。

 くるっと後ろを振り向くと、苦笑いのれんと目があった。

 蓮も、大量のラブレターを両手いっぱいに抱えている。

 私1組、蓮2組。

それゆえ、靴箱が隣り合っているのだ。

 ちなみに、ふじは3組、らんは4組。

 見えないけれど、きっと私と同じ状態でしょうね……。

 素早くスクールバックの中に手紙を丁寧に突っ込み、立ち上がった。

 視界に入った蓮は、まだ乱雑にポケットに手紙を入れようと悪戦苦闘していた。

 諦めてスクールバックの中っこみゃいいねのに……。

 「蓮様ワイルド」

 「あのポケットになりたーいっ」

 また外野が騒いでる。

 思い上がらないでよね。蓮は、あんたらがうっとおしいからスクールバックにすら入れたがらないのよ。ま、意地張ってんのもあるけどね。プライド高いから。私もだけど。

 「先行っちゃうぞ、蓮」

 私は蓮の元へ駆け寄ると、ポンと肩を叩いた。

 だからね、私たちは誰の言いなりにもならないのよ。私を操りたい者たちの、思い通りにはならないの。でも、私がどうであろうと、あんたたちは喜ぶらしいの。最初はそれに戸惑ったりもしたけどね、もう慣れちゃった。いやめんどくさいけど。うっとおしいけど。

 嫌いだけど憎んじゃいないの。だから、私たちが憎んじゃう前に、ちょぉぉぉっと現状変えていただけると嬉しいんだけど……。

 ああ、言わなきゃわかんないよね。言えない臆病な私!

 「待って、今行く」

 そうつぶやく蓮は、まだ手紙が入れ終わらないみたい。つーかそもそも、この手紙はポケットに入る量じゃない。

 私は靴箱を覗き、まだ中に手紙が入っていることを確認すると、その中の手紙をかき集める。

 「あっ、華様が蓮様のラブレター集めてる!」

 「おっ、破るかっ」

 実況いらない。ラブレターって言わないで、微妙に恥ずいから。破るってなに。破るなより燃やした方が簡単なのに……。あと、掃除大変。色々ツッコミ入れとく。

 私はなるべく丁寧にラブレ、否、手紙を自分のスカートのポケットに突っ込む。

 「さっさと行こ、蓮」

 「お、おお……」

 私はスカートをパンパンと払いつつ立ち上がり、廊下の方を見る。

 もちろん、そこにも人の分厚い壁。

 「ああ、もしかしたら私の書いた手紙が華様のスカートのポケットの中に!」

 「私今日蓮様にラブレターを書いたの!まさか、私の手紙が蓮様だけでなく、華様のお手にも……?」

 「え、マジで!!」

 「うらやましすぎじゃーんっ。」

 あ、余計にめんどくなったかも……。

 その時、周りがまたざわめく。

 「蘭様はスクールバッグの中に手紙入れたね」

 「藤様はあまり興味を持たれていないですね……」

 蘭と藤が、廊下に出てきたみたいだ。 

 そしてそれを、実況で知る私……。

 四つ子なのに以心伝心じゃないのが悲しい。

 最近は、三人がなにを考えてるのか全然わかんない。

 「お姉様、うっとおしいからと言って目立つようなことをしてしまえば、余計面倒臭いことになりますわよ。もう少し気をつけてくださいません?こちらも迷惑を被りますので。」

 蘭と合流した途端、文句を突きつけられた。

 「わかってるよ、それくらい!いちいち言われなくても!」

 そもそも、いわれるまでのことですらないし!

 高校に入学してはや一ヶ月半。すでに学園の注目になってる私たち。小学校でも中学校でも同じみたいな者だった。むしろ、年をとるごとに悪化してる気がする。

 それはずっと一緒の私たち四つ子。

 蘭はわかってて、わざと言ってるのよ。

 ほんと、意地悪な子。誰に似たのか。いや、これも言わずもなが母上と父上ですね。逆に私はおとなしすぎるって言われてるくらいだし。

 「お姉様、あなたは大方心の中で私に文句を吐きまくっているのでしょうが」

 ぎくっ。

 「私はで言っているのですわ。お姉様がまたヘマでもやらかさない限り」

 くーっ。

 こんな嫌味ったらしな言葉が、親切心なわけないじゃないっ。

 あーあ、可愛くないっ。

 「まぁまぁ2人とも、早く教室行こ?」

 藤が苦笑いしてる。大人だこいつ。

 「そだね、藤。ところで、らぶ、じゃない、手紙いくつぐらいもらったの?」

 私はほんの、世間話のように話題を振ったのだけれども……。

 その瞬間、藤の目からスゥーっと体温がみるみるうちにかき消えて行き、口がするするとこを描き、キュッと額の皮膚が動いた。

 側から見れば、藤は完璧な笑顔を浮かべていると思うだろう。

 でも、お姉ちゃんにはわかる。

 藤、無茶苦茶怒ってるーっ。

 「あー、藤の雷落ちたー」

 「お姉様、やっちまいましたわね」

 蓮は棒読みで、ランは小馬鹿にしたようにそれぞれ解説する。

 「ウーっ、言わないでーっ。藤、よくわかないけどごめん」

 「おい姉さん」

 「ひっ。」

笑顔のままの藤が、ずいっと顔を近づきけてくる。

 藤は普段、私のことを華って呼ぶ。

 姉さんって呼ぶ時はもちろん、怒ってる時だーっ。

 「わかんないのに謝ってんじゃないぞ」

 「ぎゃーっ、ごめんなさぁーぃっ」

 すごみのある藤の言葉に私は震える。

 階段まで小走りで急ぐ。否、逃げる。

 「「あ、逃げた」」

 蘭と蓮がハモる。わざわざ言わんでいいっ。

「華様と藤様が喧嘩を?」

「逃げる華様かわいい……」

  喜ぶな外野ーっ。

人の波をかき分けて、私は逃亡した。

 教室は2階だ。

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