第2話 迷惑な出迎え

 北門の前に、たくさんの人が群がっていた。

 「鬼月きづき様だ」

 「今日もお綺麗ね」

 「ああ、ふじ様の笑み尊いぃ〜」

 「れん様は今日もやんちゃねー」

 「かーっ、今日もらん様の笑顔最高っ!」

 「俺みたいな下等生物にも平等に微笑んでくれて……」

 「はな様もクールでうるわしいな」

 毎日毎日、呆れるしかない。

 勝手に集まって、騒いで邪魔して、わたしたちを見て。

 何が面白いんだろう。何が楽しいだろう。

 そんなこと分かってる。

 わたしたちが珍しくて綺麗だから。

 まるで美術品のように眺めて囲いたいから。

 あと、怖いから、も、あるか……。

 私は校舎をまたぐと、くるっと振り返った。

 ふわっとした長い黒髪が、風と共に舞う。 

 周囲がわっと騒がしくなる。

 振り返っただけだっーの。

 後ろには、三人の男女がいた。

 長くつややかなストレートの黒髪を三つ編みにした女の子。

 ツンツンとした少し長い濃い茶髪の男の子。

 ショートカットのクセのない黒髪の男の子。

 その三人の顔は、ずっと整った鼻、少し鋭い尖った目に細いまつ毛と、細かな違いはあれど、とてもよく似ていて、そしてひどく美しかった。

 それは、私も同じだ。

 私も、鏡でしかみたことがないけれど、この三人によく似ている。

 「どうしたんですの、お姉様。いきなり振り返られて」

 いきなりお嬢様じょうさま言葉を喋り出したのは、三つ編みの少女。

 「こいつらがうるせーからじゃねーのか?」

 うざったらしそいに吐き捨てるのは、ツンツン頭の少年。

 「まあまあ、そこは穏やかに行こうよ」

 困ったように笑ったのは、ショートカットの少年。

 「なんでもないよ、蘭、蓮、藤」

 私はそっと笑う。

 「きゃあ、華様が笑われタァっー!!」

 「ああ、俺目潰れてもイィーっっ!!」

 「四つ子マジで神スギィーっ!!」

 途端に騒がしくなる外野。

私らは動物園のライオンでも虎でもないのですが。

 「外野うるさいですわね。お姉様の笑みは、私だけのものだといいますのに!」

 いや、そこ?

 蓮と藤にも微笑んでるんですけど。

 いつ私の笑みは蘭のものに?

 あと、何も言ってない。

 妹が全然わからない。

 「あーあ、早く教室いこーぜ」

 「そうだね、兄さん」

 呆れ顔の蓮に、笑みを絶やさず藤がうなずく。

 「まだ朝なのに……」

 色々疲れた。


 長女・華。

 次女・蘭。

 長男・蓮。

 次男・藤。

 私たちは、世にも珍しい、しかも美形の、四つ子なのでした、はい。

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