29.

「どないしたん? なんか考え事? 難しい顔になってる」


俺に声を掛けてくるアンナ。

俺は、はっとなって、我に返った。


「いや、なんでもない」


俺は慌てて、そう答えた。


「ふーん、そっか、でもな、あんさん、今は、目の前に集中してな」


アンナはそれだけいうと、また黙ってしまった。

俺もそれ以上は何も言わずにいた。

暫く進むと、前方に大きな森が見えて来た。

森の中は暗く静まりかえっていた。


そう、ここにいるのは、あの四天王の1人ルベルディアである、

エリーゼとヴァンパイアキングルベルディア最後が分からない。


「さあ、行きますわよ」


ミフィアがそう言って、先頭を切って、進んで行く。その後ろをアンナが付いて行った。

その後ろに俺はついていく、すると後ろから、


「あんさん、大丈夫?」


とアンナの声に、俺は、立ち止まって振り返る。

すると、そこには心配そうな顔のアンナがいた。

その隣には、エリーゼの仇の娘がいる。


俺は、そんなアンナに笑顔を向けてから、再び歩き出した。

その俺を見て、ミフィアがこう言うのです。


「ロイス、前に出て、精霊魔法使ってよ」


「わかった」


俺はミフィアの言葉に、無言のまま従って、前に出た。

俺はこの時、完全にエリーゼの件を吹っ切れていたわけではなかったが、それでもミフィアを信用することにしたのだ。

精霊魔法を展開させる。


「大地の加護を受けし風の妖精たち、その大いなる力を、我が前に示し、その威光を示したまえ、我らを守りてその偉大な力と、勇気を与えたまわれ、来たれ! ノーム!」


そう言って、俺の召喚に応えてくれたのは、緑の帽子を被った小さな男の子の、可愛らしい土の妖精さんで俺の呼びだしに応えて、姿を現したのだ。

俺はその子を見るなりこう言われる。


俺は、その子に名前を尋ねてみると、元気よく、 返事をする。

その姿に和む。

可愛いな、そう思いながら俺はミフィアの方に向き直ると、ミフィアは満足げに微笑んでいた。

そんなミフィアに俺は、 声を掛けた。


「なあ、あんさん、この子は?」


アンナは興味津々といった様子で、俺に質問してきた。その視線は、好奇心で溢れていて、俺はそんな彼女に笑いながら言った。


「ああ、この子か、紹介する、彼は俺の精霊だ」


俺はそう答えると、アンナに紹介した。

俺は改めて、彼に挨拶をして貰おうと名前を聞いた。


「君の名前は?」


その問いに、


「僕は、ノームだよ」


答えてくれて俺はとても嬉しい気持ちになったのだった。

俺はそんな彼の頭を撫ぜながらもう一度、礼をいった。


「ところで、ミフィア、魔王城に何の用があるんだ?」


俺はミフィアに尋ねてみるとミフィアが


「今のロイスになら、扱えるものがありそうだから、取りに行くのよ」


俺の問いかけに、あっさりと答えを返すミフィア、 俺が聞きたいのはそういう事じゃないのだが、しかし、 ミフィアはそれ以上何も語ろうとは

しなかった。

そして、 しばらく歩くと、その先には大きな湖が広がっていた。

その湖の中央に大きな古城が見えた。

その城の周辺には、 色とりどりの花々が咲き乱れていた。

その城は、魔王の居城と言うにはあまりにも、綺麗だったのだ。


「貴方が魔王化していた時に使われていたらしいから記憶はないかもでしょうけど、第二の故郷だったのでしょう?」


そう、俺に語りかけるミフィア、俺はそんな彼女の言葉に思わず思い出してしまったのだ。


「ああ、俺はここを知っている、魔王の時の記憶はないのにな」

俺はそう言って苦笑した。

そうここは、確かに俺が魔王としていた場所だ、

そう、ここにいるはずのエリーゼはもういない。


「俺がこの手で」


「そうですわね、お姉様をころ、魔王、ロイス、私が見破れぬとでも?」


そう言い放った、ミフィアは俺に対して冷たい目をして睨みつけてきているので、流石にアンナが割って入る。


「どう言う意味や? あんさんがエリーゼをなんで」


「魔王としての、封印した魂を呼び起こした、だから、エリーゼお姉様は貴方に殺された」


俺は、その言葉を聞いて、思わずミフィアに掴みかかった。

その勢いで、ミフィアは地面に叩きつけられた。

俺はそのまま、ミフィアの上に馬乗りになると胸ぐらをつかんで、顔を近づけて叫んだ。


「仕方がなかったんだ、俺はそうしないと」


「そうしないと、自我が保てなかったからですか? 魔王である事を否定したのに、お姉様の微声に逆らえなかった?」


ミフィアは俺を見つめる瞳に悲しみの色を宿して、悲し気に言葉を紡ぐ、俺はそんなミフィアの言葉にこう応えた。

それは違うと言いたかったのだ。

でも、それは紛れもない事実である。


自制する為に俺はエリーゼを殺したのだから……。

俺の心には未だ憎しみが渦巻いていた。

俺は今にも泣き出しそうな表情をしているのだろう、アンナが俺を慰めるように抱きしめてくれるが、

その腕は優しくてもどこか震えていた。

そんな、アンナの優しさは俺の心に染み渡った。

でも、俺はそんな彼女を振りほどいてこう告げた。


「最初からこれが目的か? 俺を殺せばお前は姉の為に大義を尽くした英雄に成れるもんな」


最初から理解はしていた。

それでも、信じたかった、だから、俺は手を前に出すと


「来い、魔剣、エルドラム」


俺は手には闇の属性が付与された、剣が現れる。

それを構えながらこう言ったのだ。


「信じていたのに!」


そう叫ぶと俺は剣を振り降ろそうとした。

が、そのまま手を止める。

俺は魔王だ、でも、それと同時に人でもある。

俺は起き上がると、そのまま、彼女から背を向けた。


「待ちなさい、貴方の敵は目の前にいますわよ」


そう言うミフィアは、先程俺に殴られた影響で、頬が赤くなっているが、それよりも、俺をじっと見据えるその目には覚悟を決めたような意志の強さを感じた。

その目を見た俺はミフィアに謝って、その場を離れた。

俺が離れると、ミフィアはアンナに何かを呟く。

アンナは、ミフィアに一言、


「わかった」


と告げるとその手をかざすのだった。

そして、アンナの手がミフィアの頬を叩いたのだ。

パンっと乾いた音が辺りに響く中、俺は驚いてミフィアとアンナの方を交互に見た。

ミフィアは何を思ったのかそのまま倒れ込んでしまうと、涙を流す。

そんなミフィアを見下ろしながらアンナも涙を流していたのだ。


俺は何も言えないまま立ち尽くすと二人は俺に視線を向けてくるとアンナがこう言ったのだ。


「あんさん。許してあげてな、ミフィアはな、あんさんの為やったんよ、あの時、ミフィアは、汚れ役を買ってくれただけなんや」


「え?」


俺はアンナが語る言葉の意味が分からず、首を傾げると、ミフィアは口を開いた。


「私はエリーゼをロイスのお母さま、リリアさんと間違えてしまいましたの、それでロイスは、私を信用してくれなくなった、

エリーゼもロイスを裏切った、ロイスには誰もいないの、私の大切な妹だって、なのに、貴方にエリーゼの事で罵倒されるなんて耐えられなかった、だから」


俺はミフィアの話を聞くうちに、頭が真っ白になった。

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