25.
俺は、このエリーゼの姿のした女がエリーゼだと認めたくはなかった。
エリーゼは、いつも優しく、控えめに微笑んでいたのだ。
俺はこの女性の変わり果てた姿を見るのはとても辛かった。
だからだろうか……俺の気持ちとは裏腹に、俺は自然とその女性の名を呼んだのだ。
「お前は、魔王軍四天王、エリーゼ・アルトワールだろう?」
俺はエリーゼに問い掛けた。
エリーゼはその俺の問いかけを聞くや否やその瞳を大きく見開き俺を驚いた表情をしながら見つめたのだ。
そして、俺はその見開いたエリーゼのその表情を見て確信したのである。
やはりエリーゼ本人だということを、しかし、エリーゼは俺にこう言ったのだ。
俺に向かって言葉を放ったのである!
「もう、魔王のロイスでは無いのですね、残念です、ならばこの子に身体を帰しましょう、ロイス
1人で魔王城に来なさい、話があります」
その声と共にエリーゼの身体が崩れ落ちる。
そう、あれは、魔王の右腕四天王のエリーゼ・アルトワールなのだと、気づかされた。
「四天王ってあんさん」
アンナが何とも言えない顔して俺にそう聞いてきたのだ。
俺はエリーゼに化けたエリーゼの体を眺めた。
エリーゼは意識を失っているのか、倒れていて動かない、俺は、エリーゼに近寄り、その肩に手を置いた。
その時、俺は気づいたのだ。
エリーゼの体は、震えている、エリーゼは自分の体を抱いて小さくなっているのだ。
俺は、そんなエリーゼを起こそうと揺さぶった。
すると小さな声で返事が帰ってきたのである。俺はその様子に安堵しながらも、心配になったのだ。
俺は、エリーゼの顔を見ると、その頬が濡れていることに俺は驚きながら言葉をかける。
エリーゼは涙を流しながら俺を見ていたのだ。
そして、俺はこんな状態のエリーゼを置いていけるはずもなく、仕方なくエリーゼをおぶり街まで連れて行くことに決めたのであった。
俺が背負っている時に気付いたのだが、その、エリーゼが大好きだった歌を口ずさんでいる事に、俺は懐かしさを感じていたのだ。
俺は、エリーゼのその歌声を聴きながら歩いていた。
そんなエリーゼに俺は、 つい昔の事を思い出していたのだ。
そして、宿屋につくと俺は、宿の女将に、俺の部屋へと案内される。
部屋に入ると、ベッドにエリーゼを寝かせたのだ。俺はそんなエリーゼを見守るようにして座っていた。
そんな俺の元にアンナが部屋に入ってきたのだ。
アンナはエリーゼの顔を見て安心したのか、ほっとしたような顔をしたのだ。
そんなアンナに俺は質問を投げかけたのである。
それは、先ほど俺の背中の中で聞いたエリーゼが歌った曲についてだった。
「それ、何の歌なんだ?」
俺は、詩人でもある、アンナに聞いた。
「大精霊の歌だね」
「えっ、アンナ、知ってるの」
アンナの言葉に、俺は驚いていた。
そんな俺に対してアンナは、苦笑いしながら答えてくれる。
「そりゃあ、私だって、吟遊詩人の端くれだよ、知らないわけないじゃない」
「へぇー、アンナって、意外に博識だったんだな」
俺がそう言うと、アンナは少し怒ったように、俺に言ってきたのだ。
「後衛の弓術師だとでも思っていたんでしょう」
そう言ってアンナは俺を見てきた。
俺は図星をつかれて焦ったが、それを悟られないように誤魔化したのだ。
アンナの言葉を肯定するように俺は言葉を口にしたのだった。
俺は、そんなアンナの様子を見ながら、ふと、エリーゼの事を考えていたのだ。
エリーゼは一体何のために俺の前に現れたのだろうか? ただ単に、俺を揶揄いに来ただけなのか?
それとも、何か別の目的があるのかもしれない。
でも、俺には、微笑みながらこう言った。
「アルナだと、呼びにくいだろうからアンナに改名したからね」
そう言って、俺の手を取り、握手してきたのだ。
そんな、アンナを見て、俺は、本当に、別人になってしまったのだと実感したのであった。
そう言えば、あの時、魔王軍四天王の一人、エリーゼは言っていた。
魔王ロイスの時の俺は魅力的だったと……
確かに、魔王ロイスは強かったし、カリスマ性もあったと思う。
でも、今の俺には、そんな記憶がないのだ。
俺には、魔王のロイスの記憶が全くと言っていい程、無いのである。
魔王ロイスは、俺に何をさせたかったのだろうか?
そんな事を考えながら、俺は、エリーゼを見つめていた。
エリーゼは目を覚ます気配はない。
俺は、そんなエリーゼの頭を撫でたのだ。
エリーゼが目覚めるまで、側にいてやろうと思ったのだ。
エリーゼは、俺が頭を撫でると、とても嬉しそうな顔をして、微笑んでいた。
そんなエリーゼを見ていると、何とも言えない気持ちになる。
俺は、エリーゼの笑顔を、また見たいと思っていたからだ。
エリーゼは、俺に微笑むと、俺に抱きついてきたのだ。
そんなエリーゼの行動に俺は、驚きながらも、そのままエリーゼを抱き締めていた。
俺は、しばらく、エリーゼに抱きしめられていたが、エリーゼは俺から離れると、俺の顔を見上げて、微笑んでいた。
そんなエリーゼの微笑んだ顔を見た俺は、エリーゼをまた愛しく感じていたのだ。
そんな俺に、エリーゼは、話しかけてくる。
「ねぇ、私、貴方に謝らないといけない事があるの、聞いてくれる?」
俺は、エリーゼのその言葉に、静かに、首を縦に振った。
すると、エリーゼは、俺の手を握りながら、こう言ったのだ。
「私は、貴方の知っている、エリーゼじゃないの、本当の名前は、魔王軍四天王、エリーゼ・アルトワールなの」
俺は、エリーゼのその言葉に、驚きはしなかった。
むしろ、納得したのだ。
俺が魔王化したわけにも……。
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