24.

戦斧を俺に投げたのだ。

俺はその光景を見て、思わず、 飛んでくるアンナの戦斧を掴もうとしたのだが、手は空を切り、アンナの投げた。

アンナの愛用している、その、アンナの体躯程ある、その巨大な斧は勢いよく回転しながら俺に向かって飛んできたのである。

その光景を俺は、呆気に取られながら見ていた。


(おい、嘘だろ、そんなもの当たったら確実に死んでしまうぞ)

と思いながら、俺はその戦斧を避けようと思ったが、避けたら、俺の後を追ってきていた、あの存在に直撃するのは間違いないと確信したのであった。

俺は避けるのを諦めて、 迫り来る、俺の顔面目掛けて飛んできた戦斧を両手を使って、受け止めようとしたのである。

俺はその衝撃に備えて身を固めたのであった。


俺の予想に反して、アンナの放った、その、アンナの体に比例した大きさのある、巨大な戦斧は、俺の顔に当たる直前、

突如軌道を変えてそのまま地面へと突き刺さったのである。

俺は何が起きたか理解できなかったがアンナが無事だったことにホッとしていたのだ。

しかしそんな安堵した、束の間の出来事だった。

俺は信じられないものを見てしまったのである。


「エリーゼ!?」


俺の言葉に反応するようにエリーゼが微笑み振り返って


「久しぶりね、エリーゼ、まさかこんな所で会うなんて思わなかったよ」


そう言って、その女、いや、彼女は俺の方を見たのだ。

その彼女の視線に、俺はゾッとしていた。

その冷たい眼差し、まるで汚いものでも見られたかのような表情、そして、その、俺を見下す様な態度がかつてのエリーゼと同じ人間とは

思えないほどだったからだ。俺は一瞬、俺の事を知らないのではないか?そう思ったのだ。


「エリーゼなのか?」


俺が彼女の名前を言った事でエリーゼらしき彼女は、俺の方を向いたのだ。

そして、彼女の口から出た言葉は、俺の聞きたくない一言だった。


「あんた誰よ」


エリーゼの態度は冷たかった。俺はショックを受けていた。

そんな俺の様子を見た、エリーゼは鼻笑いをしたのだ。

俺はますます分からなくなっていたのである。


目の前にいる彼女は間違いなく、エリーゼだと思うんだけど、どこか違う、そう、見た目は同じだけど中身が違うというか……。

そんな俺の様子を見て、エリーゼは俺を見下ろしながら、 ニヤリと笑みを浮かべたのだ。

俺を指差して、こう告げてきたのである。

それは、俺にとっては信じがたい言葉だったのだ。


「貴方、あの、無能姫エリーゼに騙されたのでしょう? 可哀想に、貴方も、その程度の能力しかないんだから、あの子と結婚するのも、当然の結果よね」


そんなエリーゼの挑発に対して、俺は反論しようとしたが、その前に、エリーゼの言葉を聞いていた、アンナが俺よりも先に言い返してくれたのである。


「貴方、いい加減にしなさい!! 私達と一緒にいた人は確かに頼りなかったけども……あの子は決してそんな、貴方に嫌われるような人じゃないわ!!」


アンナの言葉を聞いたエリーゼは不敵な笑みを浮かべていた。

そして、俺達三人を見ながら言葉を口にする、


「あら、貴女たちまだ、あの子の事好きなのかしら、あんな、使えない子」


そんな、エリーゼの言葉を聞いたアンナは、我慢できずに、エリーゼに殴りかかろうとしたのである。

そんな、アンナの拳を片手で制したのは、俺だった。


「止めろ、エリーゼの身体だぞ」


「でも中身は別人よ」


アンナがそう言って俺を止めたのだ。

確かに、エリーゼの言う通りなのだが……、でも……

そんな俺の迷いを見てエリーゼは更に煽ってきたのである。

エリーゼの外見をしているが、その言動は明らかにエリーゼではなかった。

エリーゼの口調ではない、明らかにエリーゼの性格とは違うのだ。

そんな俺の姿を見て嘲笑いながら、 さらに言葉を続けて言ってくるのだ。

とどめの一撃を、その、エリーゼの姿をした何かは俺に浴びせてきたのである。

そんな、俺の心境を見透かしているかのように、俺は悔しくて仕方がなかった。

エリーゼに、見下げられ、侮辱されている事に、 俺は、エリーゼの顔を真っ直ぐに見て、睨むようにして見たのだ。

エリーゼは俺を見下すように見ると、アンナの攻撃を手で制すると、また喋り出したのだ。


俺達には、エリーゼのその姿をした存在の言葉を聞き逃さなかった。


「魔王ロイスの時の貴方は魅力的だったわ」


そんなエリーゼの姿形をした奴が、俺に向かって話しかけてくる。

エリーゼの声で、俺は、そんなエリーゼの皮を被ったような、そいつに、腹が立ちながらも冷静に、対処しようと必死になっていた。

俺達は、一端引くことにした。これ以上ここに居ても意味がないと判断したから、それに、エリーゼがあそこまで豹変してしまうとは思ってはいなかった。

何処か、分かる、あれは、魔王ロイスの時、横に居たエリーゼだった。


「エリーゼ、何でまた」


俺は思わずそう呟いていた。

そんな俺をみて、エリーゼの姿のした女性は俺を見据えながら、薄ら笑いを浮かべていた。

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