第3話 今日から始める 学生

 そして、マーリンに連れられて教室の方へと急ぐなおイリスとは手を繋いだままである。

なぜなのか、といえば簡単で離してくれないからである。

彼が力を込めれば離してくれるかもしれない、言葉で話せば離してくれるかもしれない。

しかし、ただの握手であれほど喜んだ少女に離してくれなどと言える度胸は彼にはない。

結局、静かに後ろの扉を開き、入ることとなった。

目立たないように、それだけを心がけて。

教室にいた人数はおおよそ20人程度。

座席はまるで大学のように段々状になっており、後ろの高い席に着いている者は皆無だった。

まあそうだろう、ここで何らかの力を示せば将来が約束されているのだから。

講義を近くで聴くことこそ、成長の近道だと考えることは、容易い。

そんな物をどこ吹く風と一番高いところに陣取り担任を待っていた。

席に座る際に手は離したが、それで繋がりが消えたわけではないと理解したのか。

イリスはずっと笑顔のままである。

やがて、最前列は地位と実力のある者達で占められ、そこからあぶれた者達が一段上に座っていく、またあぶれれば更に一段上と

結局五段あるうちの三段くらいで全員が座ったのだ。

では最上段の彼に気がつく者はいなかったのか?答えは否である。


「五人かな……」


「何がですか?」


「こっちに視線を向けたのはだ」


「えっと……私には向いてませんよね?」


「そっちは大丈夫だ」


 美少女がいるのならば声をかけるのが当たり前な人種はどこにでもいる。

そう考えた彼は面倒ごとをハナから起こさないために、彼女自身に隠密の魔術をかけてもらったのだ。

あとは、村で培った悪ガキの目に止まらない動きをするだけでいつの間にか最上段にいた謎の男だけが目立つ結果となる。

仕方なかったとはいえ、これはこれで気が滅入るものだと彼はげんなりしていた。




 視線は向けられても、こちらに言葉を掛ける者はいない、なぜならほとんどの者は静かに教室前方の扉を凝視していた。

誰が担任かで、この1年が決まる決まってしまうのだ。

有名所ややる気のある担任ならまだいい、もしもハズレを引いたら……と恐怖しているのだ。

視線だけで扉に穴が開きそうな状況が四五分続いたとき、不意に扉がスライドした。

入ってきたのは気怠そうな、中年男性だ。

下の雰囲気はハズレを引いたかのように気落ちしているが、彼らは違う、


(こっちを見ました)


(間違いないか?)


(はい、間違いありません)


 確実に間違いなくこれが何を意味するのか。

単純だ、この冴えない中年が実力者であるという証に他ならない。


「ニドグェル・アストラだ、まあ好きに呼んでくれ」


 言葉と共に放たれたスキル:威圧によってこの場の支配者が誰かということをいやがおうにも理解させられる。

それまで鬱屈した態度を見せていた、下から三段目までの生徒達は顔を上げ、姿勢を正す。

最上段の彼と彼女だけが姿勢や態度を変えず、ただ担任を見ていた。

それを見ながら、満足そうに


「よろしい、力の差はわかったな?ではホームルームを始めよう」


 担任が何者なのか、今はまだわからない。

しかし、それでもここにいれば強くなれる。

それだけはわかった。

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