第2話 今日から始める 契約
翌日
彼にとって憂鬱極まりない学生という身分と生活は、これから始まるものだ……
だか、幸福なことに──
あるいは不幸なことに──
彼は新たな契約を果たすこととなる。
クラス分けに関してはまま平穏であった。
特別などおきるわけがないと高をくくっていた彼は忘れている。
当たり前な話だが召喚しかもユニークスキルである。
特殊クラスとして配属されることは入学前から決まっていたことだ……
そんなこととはつゆ知らず。
彼は鼻歌をうたいながら、指定された教室へと急ぐ。
ついたのは、魔方陣の描かれた床が一面に広がる教室だった。
「失礼します、
教室にはいると、一人の女性が待っていた。いかにも魔女の格好をした女性は、こちらを見るとゆったりとした動きで近づいてきた。
「ようこそ、召喚室へ。私はここの監督を兼任しているマーリンだ」
その名には聞き覚えがあった。
「もしかして、通知書の────」
人差し指を口に押しつけられる。
秘密だというように。
「さて、なぜ君だけ呼んだのか……それは単純だ。君にはこの魔方陣に触れてもらいたい」
「これは召喚陣、ギフトに呼応して君が繋がるべき相手と繋がる陣だ」
「繋がるべき者に?」
「そうだ、私ならこの子だな」
と言って帽子の少し上げる。
その中にいたのは、まごう事なき竜だ。
「名はアーサー、まあ私が名付けたのだかね」
帽子を直しながら続ける。
「むろんこれは皆にやってもらうことではあるが、君だけ先んじてやってもらうのは今後を鑑みてだ」
「今後ですか?」
「ああ、君のことは少々気になっていたから観察してたんだ。むろんここからね」
「君のギフトにたいして、君の周囲にどのような扱いをされるのか。そして、君がそのスキルを使い熟せるのかをね」
「結果はどうだったのでしょう?」
「まあ、周囲はよかったね。一部を除けば……だけどね。そしてギフトに関してだが────」
勿体ないという言葉が聞こえた。
「勿体ない……ですか?」
「そう、実に勿体ない。環境がそうさせたとは言え、その力は仲間を作れば作るほどにその力を増すそういう類いのギフトだ」
「まあ、そうですが……」
「言いよどむのもわかるが、まずは第一歩だ、魔方陣に両手をついて魔力を注ぎなさい」
言われるがままに、魔力を注ぐ。
「あ、これ限界ありますか?」
「私の知る限りではないな」
「そう、ですか……っ!」
ドクン、と魔方陣そのものが脈打った。
いや、そのように感じただけだ。
「すさまじいな、いや想定以上の魔力量だ」
「いつまで……やって……いれば?」
「いつもならばその三分の一でも反応が出るはずなのだが……」
まるで心臓の鼓動のように脈打つ魔方陣を見ながらマーリンはつぶやく。
しかし、なおも注ぎ続けられる魔力を飲み乾しつづけ脈打つ魔方陣。
その鼓動を聞きながら、しかしそれとは別な声を聞く、
──誰か──
「?」
──誰か──
「誰だ?」
──私と──
──友達になってくれませんか──
「そんなのでいいのかよ?」
──なってくれませんか──
懇願するように、すがるように聞こえた声に応える。
「なってやるよ」
答えた瞬間、脈打っていた魔方陣が輝く。
輝きはやがて人の形となり、その光が消えた時、そこには美少女がいた。
聖女とでも言えばいいのだろうか、そんな服装の少女がいる。
「呼びかけに応じ、馳せ参じました。イリス、イリス・アステリアです」
見開いた目の色は大海を思わせるような青、修道女のフードからわずかにこぼれた髪の色は金、まごう事なき金髪碧眼の美少女だ。
おずおずと右手をだしてくる。
疑問に思っていると──
「と、友達はまず握手からですよね?!」
なかなかにこじらせている
そう彼は感じてしまった。
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