ヒットマンズ・ファーム~中途入社の殺し屋たち

@kensho-solid

第1話 提案する日々

「あー財閥系子会社の案件ですね。もう提案するんですか。来週ですか―けっこう急ですね。承知です」

佐々木さんは電話の向こうのシニアパートナーと軽口で話しながら、電話を一瞬ワイシャツの胸あたりに伏せて小声で話しかけてくる。


「この後会社戻ったらさ、急ぎで大きめな提案の打合せするんだけど、桂君は空いてる?」

私が(大丈夫ですよ)と口の形だけで伝えると佐々木さんは爽やかに笑い「桂さんも入ってもらいますんで、では後ほど、お疲れですー」と電話を切った。もう片方の手では佐々木さんは淡々と仕事を進めている。


「悪いね、今日この仕事の納品日だから、飲みとか入れてたんじゃない?」

「いえいえ、案件が急に入るのは慣れっこなんで。空けてました」

「さっすがー。ファームの仕事が分かってきてるね」

軽口をたたきながらも、彼のもう片方の手は力を緩めず、仕事を着実に遂行している。ヴァイスプレジデントでも最も評価されている人なだけある。

「じゃあとりあえずこの案件終わらせちゃおっか」といって彼は電話を持っていないほうの手を強く引いた。


その手にはネクタイが握られていて、その先には紫色になった首が垂れ下がっている。彼も最初はそれなりの力で暴れまわっていたが、佐々木さんがすぐに革靴で脊髄を砕いたら大人しくなり、そこからスムーズに絞殺が実行できている。

「カレ、けっこう抵抗したね」といってネクタイを持つ手をゆっくり下げ、ターゲットの頭部を音もなく地面に置く。その頭の上に、死んだ彼がしていたネクタイが追いかけるように落ちる。


「もう今のうちに納品完了のワークフロー進めて、処理チームにも連絡するから。ちょい待って。あ、さっき角にタリーズあったから買ってきといてもらおうかな」

離れぎわ、絞殺された男の顔を見るわけでもなく見た。プチトマトのように充血した両眼から、涙なのか体液なのか分からない液体がアスファルトに落ちていた。ネクタイのシルクの生地に光が暗い路地の中でそこだけ反射して見えた。


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