お正月完売
そうざ
"New Year" Sold Out
元旦早々、コンビニのバイトのシフトが回って来た。どうせ今年も大した年にならないんだろうなぁと溜息を
「あのあのっ、おおお〔お正月〕あるっ?!」
息が弾み捲くり、額から汗が滴っている。
「〔お正月〕ですか……? あ~、もう売り切れちゃってますねぇ」
俺は涼しい顔で答えてやった。
「ないのっ? 一つもっ? 全くっ?」
「はい、大晦日の内に完売しましてぇ」
そう言いながら、俺はレジ横の『お正月は売り切れました』の貼り紙を目線で示してやった。
「ここも駄目かぁ~っ」
「いつもならちゃんと年末に買っとくんだけどね、仕事で色々トラブルがあって、先方にぎりぎりまで納期を延ばして貰って、しゃかりきになって頑張ってたらすっかり忘れちゃってさぁ。女房もいつの通り俺が買ってるだろうと思って準備してないし。あ~、失敗した~っ」
俺は、聞きたくもない個人情報に取り敢えず相槌を打ちながら、薄暗い店外の様子を
「ご近所さんの手前もあるし、上司とか同僚とか、女房の実家にも年始の挨拶に行かなきゃなんないしさぁ、俺、婿養子なんだよぉ。学生とか独り身ならまだ良いけど、会社勤めで所帯持ちとなると、世間体と言うか建前と言うか、格好が付かないじゃなぁい? そもそもさぁ、もっと余分に仕入れておくべきじゃないのぉ?」
案の定、一人語りの方向がクレームに傾き始め、俺は今年二発目の溜め息を
その後、
どうしても欲しいのならば、三日待てば良いのだ。三が日が過ぎれば〔お正月〕は途端に廃れ、何処かで余っていたものが放出される。プレミアなんて付きはしない。あっと言う間に只同然で出回る。運が良ければ、未開封のまま打ち捨てられたものが手に入るかも知れない。
そもそも〔お正月〕なんてものは毎年代わり映えがしない。そんな事は誰でも知っている。去年の〔お正月〕を取って置いて使い回せば事足りるのに、決まってまた新品を買い求める。不条理極まりないが、〔お正月〕とはそういうものなのだろう。
漸く外が明るくなって来て、人影が見え始めた。もう直ぐシフトの交替だ。
俺は、自分用にこっそり取っておいた売り物の〔お正月〕をそっとリュックに仕舞った。独り身の学生でもやっぱり〔お正月〕は欲しい。どうせ今年も大した年にならないんだろうなぁと思っていてもだ。
お正月完売 そうざ @so-za
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