29
アンジュの死因に理由があったなんて思いもよらなかった。私は二人、自分と
私一人なら自分でやったのだから、と自分の死を納得させられる。が、他の人を巻き込んだのなら話は別だ。
いや、別に自分の命を軽んじているわけではなくて、私の死が他の人を巻き込んでしまったことに危機感を覚えただけで。私と相性が良い、という理由だけで殺されたんじゃあ、アンジュ側……所謂天使側はたまったもんじゃない。
私は今更ながら自分の過ちの大きさに絶望し、謝罪しか言葉にならなかった。
これほどのショックを受けたにもかかわらず、いつものような涙が出ることはなく、ただただ無心で、いや、罪悪感で押し潰されて心が壊れてしまったような、そんな感じになってしまった。
アンジュやけんけんがいる時は普通を意識して上げていたテンションも、自室に一人篭ればごめんなさいごめんなさいとブツブツ一人呟いてしまう。その様は傍から見れば廃人のようだったかもしれない。
どうすることも出来ない自分に、アンジュから見れば害悪でしかない自分に、嫌気が差してしまう。ああ、久し振りに自殺願望が湧き上がる。
「……」
フラッとベランダに立ち、そのまま空に身を投げ出そうとした……のだが、
『自殺する人を減らすにはどうしたらいいだろうね』
その時ふとアンジュの優しい声が聞こえてきた気がした。しかし本人の気配は全く無い。幻聴だったとすぐに気が付いた。
『クロの自殺も止められていればな……』
『生きているうちに出会えていたら絶対止めてたし、話も聞いてあげられたのに!』
幾つもの言葉が頭を過ぎる。その優しい言葉達が、私を突き動かした。
私達は死なない。死ねない。だから別に今飛び降りても傷一つ付かないし、問題はない。
しかしそれでもアンジュの存在が私から死を遠ざけ、私は無意識のうちに部屋に戻っていた。
ポスンとベッドに腰掛け、視界が開けたかのように思考が回り始めた。
アンジュは私の死がアンジュをも殺したことを最初から知っていて、それでも私を詰ることなく接してくれていて、そして今がある。
私が逆の立場だったらどうだっただろうか。いや、考えるまでもなく分かりきっているじゃあないか。あんな優しさを向けることはきっと出来ないだろう。アンジュの優しさが浮き彫りになっただけだった。
「過去は変えられない。だから私はアンジュに謝ることしか出来ない……?」
いや、アンジュの性格を鑑みると、謝っても困ったような乾いた笑い声で許すと言うだけだろう。しかしそれでは駄目な気がする。
「過去は変えられない。でも、未来なら変えられる。だから……」
一つ思いついた事柄。それを宣言して実行するために、まずは急いでアンジュの所へと向かわねば。部屋を出てアンジュを探す。
「アンジュ、ちょっと良いかな?」
「んー? いいよ。どうしたの?」
私の決心など知らないアンジュは呑気に了承する。拒絶されないことに内心安堵し、アンジュの対面、リビングのソファに腰掛ける。
「で、そんな思い詰めた空気醸し出してどうしたのさ?」
「その、ね……アンジュ達天使の生まれっていうか、死に方っていうか、それを聞いちゃって。まずは二点ほど謝らせて頂きたいです。私がアンジュを殺してしまったこと、それと、その話を盗み聞きしてしまったこと。ごめんなさい。」
しん、とアンジュの息遣いすらも聞こえない程の静寂に、私は緊張しっぱなしだ。鳴らないはずの心音が五月蝿い。
それでも、私は言葉にしなければならない。言葉を紡ぐことでしか伝えられないから。
「それで、ですね……その過去は変えられない。私の罪として一生償います。と、それと同時にこれからの未来、アンジュを一生幸せにしていきます!」
自分で言いながら思った。まるでプロポーズみたいだな、と。
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