28 けんけんside
あれから幾日も経ち、俺は比較的何事もなく順調に死神の仕事を覚えていっている。もうそろそろ一人で狩りに行ってもらおうかな、とは先代談。
確かに人の死を見ているだけなのは辛いが、それも俺の罰だと最近は割り切ろうと頑張っている。
意外とドライな性格をしていると生前から言われていたが、こう言う所から来ているのだろうか。生前と同じように先代とアンジュさんから冷徹人間と呼ばれないことに少し安堵しながらそう考えていたりする。
「アンジュさんってそう言えば天使って役職でしたよね? 死因って決まってたりするんスか?」
今は夕飯を作る手伝いをしていた。またの名をアンジュさんの補佐とも言う。そんな時に雑談程度の軽いノリで話題を投げかける。
が、その質問をした瞬間、アンジュさんは動かしていた手をピタリと止める。
「あー、えーと……事故死、かなー……」
吃りながらも答えてくれた。が、その言いづらそうな雰囲気に、投げかける話題を間違えた、と内心後悔する。
「へ、へー……そ、そうなんスね……」
そんな気持ちが返答にも現れてしまい、余計気まずい雰囲気に。さてここからどう挽回するか。話題話題、と頭をフル回転させる。
「けんけん、俺には良いけど、近い未来君に付くことになるだろう天使にはあまり聞かないであげてね?」
「……うっす。すんません」
「ううん、良いんだよ。でもなかなか人間、自分の死を受け入れるなんて難しいからね。」
「……」
アンジュさんは静かに諭すよう言葉を重ねてくれるが、その優しさがむしろ俺の心を抉る。
「あ、そうだけんけん。この話題になったし、一応言っておこうかな。天使はね……」
その後に続いた言葉に息を呑んだのは、いったい誰だっただろうか。
その会話から数日が経ち、いつものように狩りを終えて先代と談笑していた。
が、ここ二、三日おかしかった先代の言動は日に日に拍車を掛けておかしくなっていっていった。今日もまさにそうで。俺は柄になく心配になった。
出会った当初の先代は包帯を目に巻いた状態でもスタスタと軽やかに移動していたが、今は十歩動く間に一度はどこかにぶつけてしまっている。生きている時なら全身アザだらけになっていただろう程、といえば分かりやすいだろうか。
さらにボーッとしていることも多く、話しかけても『ごめん、聞いてなかった』と謝る頻度が格段に増えた。
「先代、どうしたんスか? ここ数日おかしいっスよ?」
「え!? な、ななななんのことかな!?」
分かりやすい程動揺する先代。あ、また壁に顔面を激突させた。ゴン、といかにも痛そうな音を立てて。
「別にアンジュの死因の理由に驚いたわけじゃないよ!」
あ、ペロッと喋ってくれた。聞き出すまでもなかったな。
その話題を出したのは一度きり。ということは俺とアンジュさんが話していたのを先代も聞いてたのだろう。
「盗み聞きしてたわけじゃなくて! えと、でも結果的にそうなっちゃったけど……」
先代のおかしな言動の原因は分かった。
「私の、私のせいで……」
ああ、先代は自分を責めているのか。
『天使はね……いや、死神課の天使はね、自殺した死神と相性の良さそうな人間が事故死するんだ』
確かにそう聞くと、自分が死んだせいでアンジュさんを巻き込んでしまった、と考えに至るのも普通だろう。
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