25 黒澤side
フッと目が覚める。その目が最初に写したのは見知らぬ天井だった。我が家でもなく、病院でもなかったそこに、俺は酷く動揺した。
というより、そもそも俺は死んだのではなかったか。自分で縄を用意し、それを首に括って……
死ぬ時の記憶はバッチリ残っている。だから俺は死んだはずだ。それなのに『目が覚める』とはどういうことか。随分おかしな現実に、サァッと血の気が引く。
「まさか、生き延びた……?」
そんな、でも、と否定したくても、今自分としての意識があることが真実である。
嫌だ、生きているのは……!
誰にも共感されなかったら自分の素直な気持ちを、口から吐き出すことなくまた心の中に押し込める。
「あ、目が覚めたみたいだね?」
「誰、っすか……?」
この空間には俺一人だと思っていた。しかし違ったようで。見知らぬ人が声を掛けてきた。
俺はもう何が何だか分からず、質問に質問で返してしまったが、その俺の動揺を気にすることなく、この男性は簡潔に自己紹介をした。
「俺はアンジュだよ。よろしくねー」
「……」
ガッツリ日本人顔なのに、カタカナでアンジュ、か……。他にも考えることはあったろうが、まず思いついた感想がこれだった。すまない、まだ混乱しているんだ。
よく見ると顔は整ってるな、とか、いかにも陽キャっぽいな、とか……。他にも色々思いついたことはあるんだけど。まぁ、うん。
「アンジュー、どんな感じ?」
アンジュさん(?)ですらもまだよく分かっていないのに、また一人増えた。今度は女性……包帯を目に巻いていて、ちょっと怪しい。俺は警戒心を少し強めた。
「黒澤 健次郎くん、だよね? 私はクロ。死神だよ。」
ちょっと何言ってるんだろう。そんな心情が顔に出ていたのか、アンジュさんが助け船を出してくれた。
「クロ、それだけだと分からないでしょ?」
「あ、そうだね。ええと……黒澤くん。君は自殺した。だから私の跡を継いで死神の仕事をしてもらいます。」
自分がちゃんと(?)死んだことしか分からなかった。むしろ謎が増えた。
「……自分なんかを消し去るために死んだのに、これじゃあ意味がないじゃないか。」
ポツリと零れた独り言。俺の感情は今、この一言に尽きる。
「あー……成る程なぁ……」
あまりにも小さく零したから誰にも聞かれていないと思っていたが、クロさんはキッチリ聞いていたらしく。俺の呟きに同調した。
「先代の気持ちも今分かったよ。確かに『死にたての自分』を見ているみたいだ。」
繰り返すってこう言うことか……と辛そうに言葉を絞り出すクロさん。さすがに死にたては不謹慎だろう、と内心で突っ込んでしまった。ついさっき自殺した俺が言えることじゃないかもしれないけど。
「まぁ、過去は変えられないってことで、これから黒澤くんには死神の仕事を覚えて……もらう前に呼び名を考えようか!」
「クロ、もう少し詳しく伝えないと、黒澤くん、まだ状況把握出来てないみたいだよ。」
「そっか、それもそうだよね。ごめんごめん。」
それから教えられたこの世界の仕組みに、ようやっと理解出来た。納得はできないけど。
「自殺者が皆就く仕事が死神で、クロさんの跡を俺が継ぐイメージ。で、アンジュさんは死神を補佐する天使という役職。で、本名は力があるから仮の名前を付けて呼び合う。」
「そうそう! 飲み込み早いね!」
クロさんに手放しに褒められ、俺はむず痒さに頬をかく。
「ということで、まずは名前を決めよう!」
「ハイハイ! 俺すぐ思いついたよ!」
急にテンション高く挙手し出すアンジュさんに、どこか嫌な予感を覚えながら一応聞いてみる。
「苗字が
「却下でお願いしたいっす!」
ほら見たことか! 嫌な予感的中!
即座に否定すると、ぷうっと頬を膨らませて不機嫌になるアンジュさん。いや、そんな顔しても可愛くないっすよ、と内心で突っ込んでおいた。声に出したら余計五月蝿くなりそうだったし。
そんなやり取りを、クロさんは一歩引いたところから面白そうに傍観していた。
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