24(※)

 番人と約束をし、死神の仕事に一層力が入るようになった。アンジュにもその時の話は伝え──というか私の表情を見て疑問に思ったアンジュに誤魔化す事も出来ず、伝えざるを得なかったとも言う──、それなら生まれ変わった後、二人でその活動をして行こうと新たに約束もした。


 そんなこんなでバタバタと仕事に取り組む傍ら例の活動について話を進めたりしていたら、気がつくと幾年も経っていたようで。慌ただしい心を抑えながら今日も今日とて狩りへと向かう。


『今日、は……』


 アンジュから告げられた情報を思い出し、グッと眉間に皺が寄る。






「ああ……もう、だめだ……」


 ターゲットがいる場所に辿り着くと、絶望したような声が聞こえて来た。


 ガガガ……と固いものが擦れる音、辛い苦しいと呟く声、その中に一度だけ声に出た『助けて』。


 デジャヴ、と言うんだったか。そんな思考が頭をよぎる。


『待って、待って、死なないで! 私みたいな人間をもう出したくないの!』


 今日狩るターゲット、黒澤 健次郎。自殺。

その情報を得てから、まるで彼の苦しみが自分のことのように思えてしまい、私は大声でターゲットを引き止める。


 ギシ、ギィ……


『待って待って!』


 しかしターゲットは生者、私は死者。そんな私の声なんて向こうに聞こえるわけもなく。ガタン、ギィ、と大きな音を立てた後、シンと静まり返る。







 生にターゲットを引き止めることも出来ず、鎌を振り彼の魂を手にすると。


『……?』


 何か、今までの魂と違うような不思議な感覚がした。何だろう、言葉にし難い……?


 よく分からず首を傾げながら番人の元へ。そこで放たれた言葉に、私は驚き声が出なくなる。


「……代替わり、だな。」


 それは、如月 瞳が消えるまでのカウントダウンが始まったことを指していて。ひゅっと息が詰まった。






 黒澤 健次郎くんの魂をあの後館に持ち帰り──次代の死神を育てる為らしい──、客室のベッドへと魂を置く。


 しばらくの間そうしていれば、魂の情報から生前の姿を取り始めるらしい。私は包帯を着けているので彼の姿は結局見られないが、私も生前の姿を取っているのでその情報は確かなものだろう。


 黒澤くんが目覚める前に、アンジュへの説明を終わらせておこう。そう思い立ち、リビングへと急ぐ。


「アンジュー、ちょっと良いー?」

「んー? 良いよー。」


 緑茶を二人分淹れて向かい合うように座り、それを一口飲んで口を湿らせてから話し始める。


「えーっと……何から話せば良いか……」


 吃りながらも、先程の出来事を掻い摘んで伝える。


「そっかー今日狩った子が次の死神に決まったのかー……」


 自殺者を減らす活動を始める前に、か。もどかしいね。


 ポソっと呟かれたアンジュの言葉に、私は同意でウンウンと頷く。


「あと、死神の代替わりが終わったら、私もアンジュも転生の準備に入るって。」

「……そっか。」


「代替わりが終わったら離れ離れになるかもしれないこと。そしてアンジュのことを私が忘れるかもしれないこと。またはアンジュが私のことを忘れるかもしれないこと。……それらが、私は怖い。」


 包帯で他人の表情を読めなくなってから、私は自分の心も偽らなくなった。偽った瞬間、誰にも私の心に気付かず死んでしまうような感覚に陥っていくから。


 そんなこともありポロポロと零れる本音に、アンジュがどう思ったか。声も物音も立てないから私には分からない。

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