23(※)

 あのお墓参りから、アンジュも私も意識的に変化があった。が、仕事がなくなるわけでもなく。


 今日も今日とて狩りに行く。


「クロ、いってらっしゃい。」

「う、うん……い、行ってきます。」


 あの一件からアンジュの一言一言が……なんというか、ええと、優しく?甘く?なった感じだ。いや、元々優しかったのだが、輪を掛けて優しくなった、と言った方が正解か。


 正直私の(無いはずの)心臓がそれについて行けずに毎回バクバク五月蝿く鳴るのをどうにかしたい、というのが最近の悩みである。実に幸せな悩みだ、と自嘲しながらも頭を仕事へと切り替えようと深呼吸してみたりする。


『今日は……』


 今から狩るのことを考えると、心に靄がかかるような気になる。


 小さな小さな子供。それが今日のターゲットだ。









「では魂を渡してもらおう。」


 いつものようにそう言われるがまま、今日狩った幼子の魂を番人へと渡す。


「……」


 小さな子供が亡くなるこの現実に、やはり心の靄は晴れることなどなく。キュッと口を結び、遣る瀬無さを心の奥底へと沈めていく。ここで番人に愚痴を言った所で現実は変わらないのだから。


 だって私は死者で、生者には関与出来ないのだもの。


「……小さな子供の魂は皆、天使協会の特別課に配属される。」


 すると私の心境を察したのか、番人はそう教えてくれた。


「特別課、ですか? それはどんな……」


 天使協会はアンジュも所属しているのでなんとなく身近に感じるが、何がどう特別なのだろう。これくらいは質問しても良いだろうか。


「……死者と生者を繋ぐ役目を担ってもらっている。」

「そう、ですか……」

「……特別課も、死神も。そんな役職に就く人間がいなくなれば良いのにな。」


 番人の切実な願いが、溜息のように弱々しく吐き出された。


 特別課は幼子、死神は自殺者。どちらの死に方も無くなればそれぞれの役職も消え去り、また、生者の世界は変わるのだろうか? 番人の言葉を聞いた私は脳内で誰かにそう語りかける。まぁ、答えなんて返ってはこないが。


「番人……私は今、死んだことを後悔しています。でも、それに気付いたのもまた死神という役職に就いてから。……皮肉なものですよね。」

「……」


 死者の、それも死神の言葉なんて番人は聞きたくないかもしれない。それでも、今の私の気持ちを言葉にする。


「しかしそう思えたのもアンジュ……私の元にいる天使のおかげです。でも、欲を言うならば生きているうちに出会いたかった。」

「……」


「そんな私に出来ることなんてたかが知れています。でも、後悔した私だからこそ何か伝えられるんじゃないかって……思います。」

「……」


 ああ、支離滅裂だ。自分の思いを伝えるのは、こうまでも難儀なものなのか。


 それでも番人に伝えたい、そんな思いで言葉をいくつもいくつも紡いでいく。


「もし、次生まれ変わることが出来たのなら。私は何か、行動を起こしてみようと思います。」

「……」


「死者の世界で何を言っても、生者には届かない。なら、生者となって」

「死神よ。」

「っ……はい。」


 番人は私の言葉を遮った。もうこれ以上聞きたくない、ということなのだろうか。私は思わず口を横に結ぶ。


「……これは極秘情報なんだが……今のお前さんになら言っても良いだろうか。いいか、死神や天使も、いずれは転生する仕組みにはなっている。」

「え……」


「ただ、記憶は引き継がれるかどうかはその人によって違う。……それでも、やってくれるというのか?」


 確かに死神だった記憶がなければ、死んだ本人だからこその後悔も消えるということ。安易に答えて良いものか、と暫し思考を巡らせる。


「……やります。やらせてください。まだ具体的な案は出てないんですけど……それでも。」

「……そうか。ではよろしく頼む。」


 記憶の引き継ぎが無いかもしれないこの状況で、無謀な約束をしたかもしれない。それでも、記憶が有っても無くても、想いは同じなんじゃないかと思う。いや、思いたい。


 番人の言葉に、私はコックリと重く頷いた。

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