22
「瞳さん、私はあなたが好きです。」
私は目が点になる程その言葉に驚く──まぁ、アンジュには私の目なんて見えていないだろうけど──。
「あ、もちろん恋愛の方の意味だからね。」
「っ……、……」
急な告白に驚きすぎて喉が張り付き、声が出せない。ハクハクと息だけが口から僅かに漏れる。早く何か返事しなきゃ、そう慌てれば慌てる程声が出なくなっていく。
「あれ、瞳サーン?」
そんな私にアンジュは痺れを切らしたらしい。私の両肩を掴みガクガクと揺らし始めた。
「瞳サーン、今の今で寝ちゃった?」
「んなわけあるかい!」
さっきの爆弾発言を一瞬忘れてツッコんでしまったじゃあないか。更に『どんな解釈をすればそうなる!』と追撃しかけたが、アンジュの言葉に対して返事を疎かにしたのは私だ。あまりアンジュだけを責められない。
「で、瞳さん。どう?」
「え、と……」
アンジュの催促に、私の鳴らないはずの心臓はピークに達し、ボンッと全身が熱くなるような感覚も充分理解してしまった。
アンジュから好きだと言われて、全然嫌だとは思わなかった。むしろ、むしろ……
「うれ、しい……」
私は無意識のうちにポツリと素直な気持ちを呟いていた。あれ、私、嬉しかったんだ? 素直な気持ちと言ったが、それが本当ならじゃあ私もアンジュが、鈴佳が好き……なのだろうか?
私が内心混乱していると、本当に小さな声だったのにも関わらずアンジュはしっかりきっかり私が零した声を聞き取っていたようで。
「はわ……! じゃあ、じゃあ! 俺の恋人に……!」
とても嬉しそうな声でアンジュは私の両手を握る。
私は未だに混乱していた。もし鈴佳のことが好きだと仮定すると、それはいつから?
小さな小さな私の心の声を、耳を澄まして聞く。アンジュのことは好き? もしそうなら、それはいつから?
『自覚していないだけで、明確に意識し始めたのは私が一人で泣いている所を見られてからじゃない?』
『でもその前から少しずつ自分に変化があったのも事実!』
『独りだと思っていた所に現れた時点で救われていたんじゃないの?』
「……、」
聞こえた内の声は雄弁だった。そして自覚した。ああ、そうか。知らないうちにアンジュは私にとって大事な人になっていたのか、と。
「あ、の……よ、よろしくお願いします……」
恥ずかしさからか何なのか、カッカと熱くなった顔を隠すことも出来ずに──まあ、顔半分はそもそも包帯で隠れているが──その言葉だけを返すので精一杯だった。
「うん、よろしく!」
今まで聞いた中で一番弾んだアンジュの声が、私の耳にするりと入ってきた。その声にすら私の(止まっているはずの)心臓が反応したような気がした。
「さて、嬉しいこともあったけど、一旦ここら辺にして。クロのお墓探しがまだ未達成だったよね。」
るんるんと浮かれた声のアンジュはそう言って場の空気を変える。その一つとして私の名前を瞳からクロに変えた。
そうね、頻繁に本名を呼ばれるのも嬉しいけど、私達は死人。あまり連呼しない方が良いだろうからね。
クロの名前も聞いたから俺も探すの手伝うよ、と私の右手を取ってアンジュは歩き出す。その行動一つ一つに私の心が揺さぶられるのを分かっていてアンジュはやっているのだろうか──さっきまでも手を引かれて歩いていただろうに、という指摘は聞かないフリ聞かないフリ──。
未だ冷めない顔の熱を左手で逃すように試みるが、あまり上手くいっていないような気がする。
「ええと、如月、如月……どこだー……」
ウロウロと墓地を歩き回り、しばらくして。アンジュが急に立ち止まる。私もそれに倣って立ち止まると、アンジュはお墓に書かれている文字を読み始めたらしい。
「ごめんねアンジュ。全部任せっきりにしちゃって。」
「んー、良いの良いの。むしろもっと頼ってくれても良いんだけど?」
「えと、それはちょっと……アンジュとは対等でいたいし。だから逆に私がアンジュにしてあげられることってなんか無い? 出来る範囲で、だけど……」
今は目を包帯でぐるぐる巻きにしているからね。出来ることが生前より少ないだろうことは明らかだ。
「うーん、そうだね……一人で泣かないこと、とか?」
「それはもう既に実践(?)してるじゃん。」
「んー、そうだなぁ、取り敢えず俺の隣にいてくれれば今の所は充分かな?」
「それはもちろんでしょ」
「ふふ、……あ、このお墓に如月 瞳って名前が書いてあるよ! ええと、年の頃も一致するんじゃない?」
「良かった、あった……」
親不孝者にお墓は無いんじゃないかと決めつけてしまっていたから、その事実に少しだけホッとしてしまった。
「うんうん、良かった良かった。じゃあお供え物を……」
アンジュ特製のおはぎをお供えして、二人とも手を合わせる──
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