21

「えーと、確かここら辺に俺の先祖のお墓が……あ、あった! 俺の骨は……ここだ。」


 お墓の後ろを見てアンジュの名前が彫られていたのを確認したらしい。アンジュはしみじみと自分の骨が埋まっているお墓を眺めている……んだと思う。私は見えないからなんとも言えないけれども。


 しばらくの間沈黙が続き、その後アンジュが一つ息を吐いた。


「まぁ、取り敢えずお供え物あげて拝んどくか。」

「そうだね。」


 アンジュ特製のおはぎをお墓にお供えし、二人ともそのお墓に向かって手を合わせた。







「さてクロさんのお墓も探したいところなんだけど……」


 しばらくアンジュのお墓の前で談笑していたが、アンジュは急に話を変える。そろそろ私のお墓も探さないと、ということなのだろう。確かにどこにあるか分からないものを探す時間はいくらあってもいいものね。


「ええと、確か××墓地って所なんだけど、知ってる?」

「ああ、それならここだね。」

「え」


 驚きの事実に声が漏れ出る。同じ学校出身という事実だけでも驚きだったのに、まさか骨が埋まっている場所も同じかもしれないのか。どんな偶然なのだろう。


「じゃあこの敷地内を探せばいいってことか! ……って、俺クロの苗字知らないから一緒に探せないや。自力で探せる?」


 アンジュは目視出来ない私を気遣ってくれる。そうね、生前の名前はお互い知らないものね。自力で探すしかない。でも……


 少しの思惑を含ませてクイとアンジュの服の裾を軽く引っ張り、意識を私に向けさせる。


「あの、さ……アンジュさん。」

「ん?」

「……私が生前使っていた名前、知ってもらいたいって思ったんだけど……迷惑かな?」

「え……」


 急にこんなこと言われたら困るのは分かっている。でも、私は少し前からずっと考えていたのだ。アンジュには私の名前を知ってて欲しい、と。私という存在を覚えていて欲しい、と。


 数秒の沈黙。何分も何時間も経ったのではと思わせる程私は緊張し、断られるかもしれない恐怖に慄く。


「……いい、の?」


 それをパリンと壊したのはアンジュの呟きだった。困惑とも歓喜とも取れる声色で、表情を読めない私には判断出来なかった。


「え……?」

「いいの? クロの本名を俺が聞いても。真名は力があるから、やたらめったら教えるなって……」

「うん、だからこそ知って欲しいと思ったの。……駄目、かな?」


「ううん! 全然! むしろ是非とも教えてください俺も教えますっ!」

「え、それこそ良いの? 私の名前を教えたいっていうのは私のエゴだし……無理して合わせなくても」

「無理してないっ!」


 ぎゅっとアンジュに両手を取られ、ギリギリと少し痛みを感じる程強く握りしめられる。


「あのね、俺も名前を教えたいと思っていたし、クロの名前も聞きたいと思ってたんだよ。」

「そう、なの……?」

「うん。だからクロが名前を教えたいって言ってくれてすごく嬉しい。」


 両思いだね、と耳元で囁かれて私の顔はボッと熱くなる。その言葉に深い意味はないと分かってはいるのに何故か顔が熱くなるし、聞こえるはずのない心臓の音がバクバクと五月蝿く鳴る。


「俺の名前は渡辺 鈴佳。覚えてて。」


 内緒話をするかのように私の耳へと流れる声。その名前を頭の中で反芻してから私も告げる。


「私の名前は如月 瞳。」

「瞳、良い名前だね。」

「アンジュ……鈴佳こそ。」


 ふふ、とお互い笑い合い、柔らかい空気がこの空間を満たしていく。


 そんな中アンジュは私の両手を離すと、一つ深呼吸してまた爆弾を落としていった。


「瞳さん、私はあなたが好きです。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る