20
「ねぇ、クロ。お墓参り行かない?」
「え、アンジュさん急にどしたん? っていうか誰の?」
いつも通り仕事をこなした後、夕飯を食べ終えたタイミングでアンジュが提案してきた。それも突拍子もないものだったから、私は聞き返してしまった。
「んー、俺達の。」
「俺達って……まあ、確かに私達二人とも死んでるからお互いお墓はあるだろうけれども。」
自分のお墓参りに行くことになるとは。生前の時に考えもしなかったそれに、私は少し困惑というか動揺というか……結構心が揺れた。
「この前ここのリビングにあるテレビ付けたらさ、そろそろ現世はお彼岸の時期だ〜って言っててね? なかなか自分のお墓参りなんて行く機会無いし? このチャンスは逃すまいと思ったわけ!」
「な、成る程……?」
アンジュの高いテンションについて行けず、私は曖昧な返事しか出来なかった。
「てことで、明日辺り行かない?」
「うん、……あれ、でも狩り以外で私達が現世に降りるには、なんか許可証みたいなのが必要だったような……」
「あ、それなら俺が昨日書いといた! 『現世
「うん。……うん?」
あまりの手際の良さに、私の頭が追いつかない。というかアンジュさんや、ほら、と言われても私には見えないんですよ。ピラッと紙の音が聞こえたからその許可証なんだろうなと推測は出来たけれども。
「あと、おはぎを作ろうと思ってる!」
お墓参りよりもそっちがメインなのでは? とはさすがに言えなかった。アンジュの弾んだ声を聞いてしまったから。
さて次の日。朝ご飯を食べてから二人でのんびり現世に降りてきたわけなのだが。
「クロさん! 現世に来たわけですが!」
「うん?」
「俺、自分のお墓がどこにあるか知らないんだよねぇ……」
「ちょ、」
最初から躓く事態になってしまったらしい。クロは自分のお墓の場所知ってる〜? と聞かれたが、どこに自分の骨が埋まっているかなんて知るはずもない。まぁ、住んでいた場所からそんなに遠い所にあるとは思えないから、近場だとは思うんだけど……
「先祖のお墓に一緒に入れられているか、新たにお墓が建ったか……どちらの可能性も捨てきれないからなぁ……」
「じゃあ取り敢えずそれぞれ先祖のお墓に行ってみる?」
「ん、そうしよう。」
まずは手当たり次第に歩くことにした。
「あ、この辺りは俺の住んでた所に近いな……」
「へぇ、そうなんだぁ……」
私は何も見えないので、アンジュに手を引かれて歩いている。まずはアンジュのお墓 (仮)を目指している途中だ。
ここは車通りも少ないらしく、とても静かだ。
「あ! 俺が死ぬ前に通っていた高校が見えた!」
「へぇ、なんて高校?」
「玲北高校ってところ。で、俺が死ぬ直前はそこの二年生だったんだよ。」
「……、」
その高校名を聞いて、私は更に動揺してしまう。更に繋がれた手も震えてしまったらしく、アンジュが立ち止まる。
「クロ?」
「……私、も……玲北だった。一年生の冬、飛び降りた。」
「……そっか。じゃあ俺はそのすぐ後ってことかな。俺が死ぬちょっと前に学校で噂が広がってたんだよ。一年生が自殺したって。あれクロのことだったんだね。」
「……」
自分の死に思うところがあって黙ってしまった。ああ、駄目だ。まだ、私、吹っ切れていない。
「そっか。じゃあ生きている間に俺達すれ違っていたかもしれないってことか!」
「……が、くねんは違ったみたいだけどね。でもそうだったかもしれないね。」
動揺しながらも私はなんとか返事をすると、アンジュはいきなりどデカイ溜息をついた。それに対してびっくりした私は思わず肩を跳ね上げる。
「はあー、勿体ないことしたなぁー。」
「え?」
「生きてるうちに俺達出会ってたら、未来は少し違ってたかもしれないじゃん?」
「……」
「まず生きてるうちに出会ってたら俺は多分クロが死のうとしているのを止めてたし、クロが辛い時に一緒にいてあげられた!」
「……、」
アンジュの言葉に、私の息が一瞬止まる。
なんで……アンジュはそんなに優しいの? 私、アンジュになんにも返してあげられてないのに。
ハクハクと息を吸えなくなり言葉も出せない。アンジュの優しさが私の心に沁みて涙が出そうになる。
「まあ、タラレバ言っても仕方ないんだけどね。でももし次の生があったら、俺は迷わずクロに会いに行くから。覚悟しといてね?」
「……私も、次、生まれ変われたら、アンジュに会いに行く。」
「うん! じゃあ約束ね!」
今まで繋がれていた手を離し、お互いの小指を絡める。
願いが叶うなら、どうか私達に次の生を──
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