14(※)
感傷に浸る間も無く次の場所へと向かう。
「ぐすっ、次は……」
ターゲットの気配を探ってたどり着いたのはどこかのお家。ズンズンと気配を探りながら廊下を歩いていると、声が聞こえてくる。
「母さん、起きて! ねえ、ねえ!」
「えみ、こ……」
「置いてかないでよ! 私を置いてかないで! 母さんまでもがいなくなったら私、どうすればいいの!?」
……あれ? なんか聞いたことある声のような気がする?
違和感を感じながらも私はターゲットがいる部屋へと向かい、たどり着いた。
「瞳もいなくなって、続けざまに母さんまでもなんて……!」
ああ、『気がする』だなんてものでは無かった。これは……私の母の声だ。
ターゲットは私のおばあちゃんだったのか。何故アンジュから名前を聞いた時に気がつかなかったのだろう。衝撃を受けた私はカラン、と鎌を落としてしまい、空いた両手で顔を覆っていた。
「一人にしないで! お願い……今だけは……」
「わら、いなさ……い……え、みこ……」
「っ……!」
おばあちゃんに関しての記憶はおぼろげだ。だがそんな中でも唯一と言っていいほど覚えているのは、笑顔の可愛らしさ。
そんなおばあちゃんの『笑え』という言葉の重みはもちろんお母さんにも伝わったらしく、お母さんの息を飲んだ音が聞こえた。
「……わ、かった……笑う……」
「……そう……それ、でいい……」
「母さん……私、笑えてる?」
「……ああ……ああ……やっぱりおまえは笑っていた方が、良……い…………」
「うん……ありがとう……母さん……」
伝えることは全て伝えた、と言いそうなくらいタイミングよく、おばあちゃんの魂はフワリと体から抜け出始める。
『それで、は……祥子さんの、命は……頂いていき、ます……』
色んな思いが心の中でごちゃ混ぜになりながらも、しっかり仕事はこなす。回収しなかった時の大惨事を避けるためにも。
涙を流しながらも、落とした鎌を拾い上げてブンと振る。
番人に魂も渡し、夕飯もアンジュと食べた……はず。ほとんど記憶がないけど。
「……」
ボーッと自室のベッドに座り、どこを見るでもなくただただ時間を無駄に過ごす。
『置いてかないでよ! 私を置いてかないで! 母さんまでもがいなくなったら私、どうすればいいの!?』
『一人にしないで! お願い……今だけは……』
お母さんの必死な声が、頭から離れない。
私が死んだのは楽になりたかったから。お母さんも私がいなくなれば少し楽になるとも思った。こんな出来の悪い子供なんて、と。
でも、それは事実だっただろうか?
もしかして思い込みだったのでは?
「お母、さん……」
あんなに声を荒げるお母さんなんて初めて見た。
『瞳もいなくなって、続けざまに母さんまでもなんて……!』
私の死は間違いだった?
確かに死んだ後にこんな死神の仕事を任せられるだなんて思っても見なかった。生きている時と同じくらい辛いこの仕事から逃れられるなら、死ぬ前の自分に『今死ぬな』と言えたら良かったのだろうか?
いいや、そんなタラレバを言っても、私が死んだのは事実。死神の仕事をしているのも事実。何も現実は変わっていない。
「どうして? どうすれば?」
もう何も分からない。頭がパンクしそうだ。『私の死』について考えれば考えるほど、何もかもが分からなくなって頭を抱えてみたが、何故か涙も出てきた。
「あぁぁあぁぁあぁぁ」
狂ってしまいそうだ。……ああ、いや、狂ってしまえた方が楽だったかもしれない。だが現実はやっぱり辛いもので。
ボロボロと大粒の涙は枯れることなく包帯を濡らし、包帯で吸い取れなかった涙は頬を伝い、顎からこぼれ落ち、服やらシーツやらをどんどん濡らしていく。
「助けて……」
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