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※飛び降り注意!

────


 空き部屋へアンジュを案内し──どうやら天使もこの屋敷で暮らすことになるらしい──、私も自室に戻った。今日はもう寝てしまおうと思ってね。


 今日はいろいろありすぎて未だに混乱している。だからこそ寝てしまおう、なのだ。


 独りで死神のキツい仕事をしなければならない絶望、新しい人が来た困惑、親しみやすそうな人で良かった安堵……。まるで感情のジェットコースターにでも乗った気分だった。


 だからか、もう心はヘトヘト。そして追い討ちをかけるように、魂を狩ってきた時の情景が目に浮かぶ──まぁ、目では見ていないが──。またジワリジワリと目頭が熱くなり、ツンと鼻の奥に痛みを感じる。ああ、泣きそうだ。


「……」


 その時何故その行動を取ったか。自分でも詳しくは分からない。分からないが、『逃げる』ということにおいて、私に出来ることがそれしかなかっただけなのかもしれない。


 私は無意識のうちにカラカラとベランダに続くガラス扉を開けていた。ふわりと生温い風が髪を揺らし、涙で滲んだ包帯を冷やす。


 ベランダの柵に手をかけて反対側に体を落とすと、間を置いてグシャ、と自分の体から音が鳴る。あまりの痛みに意識が飛んだ。







 痛みで目が覚めた時には、もう夜は明けていたらしい。チュンチュンと鳴く鳥の声が聞こえた。


「イタタタ……」


 全身を打ったらしく、起き上がるのも大変だ。植え込みに引っかかった包帯を一時的に解き、体に付いた傷を確認してみると、しかし全く擦り傷すら見当たらなかった。痛みだけが存在して怪我はない。不思議だ。死ねないというのは本当らしい。これが死神クオリティ?


「アイタタタ……」


 今日も死神の仕事がある。死神の仕事は放棄できない。だから痛む体に鞭打って屋敷に戻ることにした。急いで包帯を巻いて、身なりを少し整える。


「なんで飛び降りたんだろう……」


 自分の中にその問いを投げかける。この仕事から逃げる方法といえばソレだと直感したからだろうか。それとも一時的な痛みで苦しみを誤魔化したかったからだろうか。後者ならまるで自傷行為だ。


 誤魔化した所で現実は変わらないというのに。無駄に痛い思いをしてしまったと後悔する。痛みはいつまで続くのかと不安に思いながらリビングに入ると、第三者の声が、アンジュの声が聞こえてきた。


「クロおは、よ……んん?葉っぱ付いてるね、今取ってあげる。」


 アンジュは私よりも先に起きてきていたようだ。私が挨拶し返す間も無く、ソッと私の頭に付いていた(らしい)葉っぱを取ってくれた。


「おはようアンジュ。葉っぱありがとう。」

「ううん。でもあれ? なんか昨日より服がボロボロだけど……?」

「あー、うん。ちょっと散歩してて地べたに寝転んでいたからね。」


 嘘だけど。飛び降りました、だなんてさすがに言えないし。変にドン引きされてこれからの仕事に支障が出てはいけない。


「そっか。でも確かに今日は天気がいいから外でお昼寝も良いかもね。」


 そう言ったアンジュの声は太陽のような暖かさで、私の心が少し日向ぼっこしたみたいに暖かくなった。

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