9
コポポポポ……
噛み噛み天使さん(仮名)を仕方なく館に入れ──もう一人の上司っぽい天使さんは噛み噛み〜(略)を置いて帰ってしまった──、私はお茶を二人分淹れていた。急須を持つ手がお湯のおかげでほんのり温かくなる。
それにしても天使とは何者なのだろうか。そんなことを考えながら出来上がったお茶をテーブルに置く。
「あ、ありがとうございます……」
「ああ、はい……」
緊張した固い声でお礼を言う噛み〜(略)。ああもう面倒くさいので仮の名をカミーにしてしまおう。
カミーさんの向かいに座った私は自分の目の前に置いたお茶を一口飲む。少し頭の中を整理出来るかと思ったが、やはり情報が少なかったこともあり、この状況を理解することは出来なかった。
「あー、ええと……私はきさ……死神です。よ、よろしくお願いします?」
危ない危ない。本名を名乗るところだった。名乗る瞬間に気がついて良かったと内心安堵しながら挨拶をし、カミーの返事を待つ。
「よ、よろしくお願いします。」
今度は噛むことなく言葉を紡ぎ出された。
「……」
「……」
「……」
「……」
いや、なんか喋ってくれ! お互い無言になってしまい、気まずい空気がこの部屋に流れる。
「あのー……」
「は、はいっ!」
「天使、ってなんですか?」
その空気に耐えられず、私はカミーへ質問を投げかけてみる。するとカミーは息を飲んだらしい。そんな音が聞こえたから。
「先代の死神に教えられてないんすか!?」
「いや、まあ、はい。」
やっぱり先代から教わるような人物らしい。引き継ぎはしっかりやってくれ先代。今はもういない先代に内心でまた不平不満を零す。
「あー、えーと、なんて言えばいいかなー……」
ガシガシと何かを掻くような音と共に──頭を掻いていると推測する──面倒くさそうな声色で呟くカミー。
「……上手く説明出来ないかもしれないですけど、良いですか?」
「な、なんとか理解出来るようには頑張ります。」
生前の国語の成績を思い出し、グッと親指を立てて意思表示する。成績、悪くはなかったからね。
「分かりました。では……」
そう言ってカミーは色々天使のことを教えてくれた。
聞いた話をまとめると、
・天使というのは役職名である
・天使を名乗れるのは死人の中でも選ばれた者のみ
・選ばれた者は皆『天使協会』に入り、それぞれ与えられた仕事をする
・カミーは天使協会の『死神課』所属
・死神課所属の天使は死神の補佐が仕事
というところか。ふむ、どうやら私一人で死神の仕事をこなしていくわけでは無かったということか。なるほど。孤独に苛まれることは無くなるのか、とほんの少しだけ安堵したのはここだけの秘密。
「ということは、カミーは私の補佐ってことなんですね?」
「はい……って、カミーってなんです!?」
「いや、名前が無いって言っていたし、仮名としてちょうどいいかな、と……」
頭の中でずっとカミーカミーと呼んでいたから、思わずポロリと言葉として出てしまったらしい。ああうっかり。
「……何故カミー?」
「
「嫌っす!」
「え、じゃあ……しまっふ?」
「噛んだことから離れて欲しいですっ!」
いやあ、どうしても自己紹介で噛んだことが頭から離れなくて……。仕方ない、無いと不便だから何か他の名前を……
「確かに俺の初仕事として、死神様に名前を決めてもらうのは慣例らしいですけど……さすがにそれは……」
「じゃあ……ちょっと待っててください。考えるので。」
天使天使……エンジェル、アンジュ、エンゲル……
『天使』を外国語でどう発音するかを思い出せるだけ思い出す。思い出せる中で良さそうなものを選ぼう……それなら……
「じゃあ君はアンジュだね。」
「うっす! ここでの俺の名前はアンジュですね!」
カm……アンジュはその名前を気に入ってくれたらしい。声が今までよりも弾んだものだったようだから。気に入ってくれて良かった、と安堵する。
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