8

「あ、魂……」


 先代と別れる前に狩った魂がまだ手元にあったのを思い出した。これは番人に渡さなければ。


 どんなに悲しくても途中の仕事は終わらせないと。そんな義務感でなんとか足を手を動かす。


「迷える魂裁く在り処へ、我、導き給え! 開けゴマ!」








 リビングのソファーにだらんと座りながら大きな溜息をつく。


「はぁぁああ……」


 番人の所にも行ったし、今日の仕事は終わり。誰が何と言おうと終わりなんだから! だって……


「本当の、一人……」


 先代がいなくなってしまったショックで寂しくなってしまったのだから。今日くらいは一人の寂しさに浸ってもバチは当たらないだろう。


 というか先代、急にいなくなられると困るんだけど。どうせならあと◯日でいなくなります〜だなんて告知してくれれば良かったのに。そんな風に責任転嫁させてみたりもする。


「……」


 番人に『死神の行く末』を聞いてもはぐらかされたから、私は先代が今どうなっているのか全く分からない。分からないことがここまで怖いと思うなんて。死ぬ時と同じくらい怖いかもしれない。


 ああ、でも番人はただ一言『悪いようにはしない』とは言ってたっけ。今の私には番人のその言葉を信じるしか出来ないのだ。








「ふぅー……」


 なんとか先代への恨みつらみを頭で思い描いていたのだが。


『いやぁーーー! 行かないで! 置いて行かないで!!』


 どうしても一人になると先程までの狩り時の音や声が思い出される。それを思い出さない為にも先代への恨みつらみを考えていたというのに。意味もなかった。


 命が消えていく様を見るのは、聞くのは、やはり何度経験しても慣れない。まだ視界が閉ざされているからマシかもしれないが、その分他の感覚が鋭くなるし、そこから得た情報を繋ぎ合わせて状況を想像してしまう。


「……うっ……」


 想像してしまう情景を思っただけなのにジワリと涙が出てくる。置いていかれた少女のことを思うだけで心が引き裂かれそうだ。置いていかないで、一人にしないで、私と一緒にいて、と。


 ああ、今の私もまさにそうじゃあないか。先代に置いていかれて私は一人ぼっち。


 ジワリジワリと包帯が水分を含んでいく。






 リリリン……


「……なんの音?」


 一人で感傷に浸っていたというのに、聞き慣れない音に気を取られる。まだボロボロと涙を溢れさせていた私は、取り敢えずそのままの状態で音の正体を探りにいくことにした。どうせここの館には私しかいないので好き勝手にしてもいいでしょう。


 ドンドン!


「死神様ー!」


 館を歩き回っていると玄関の方から新たな音が聞こえてきた。訪問者……? 今の今まで一度も無かったそれに私は疑問を持ち、涙も止まってしまっていた。


 別に殺されても死なないからと危機感ゼロで玄関の扉を開ける。


「はーい?」

「ああ! あなた様が新たな死神様でいらっしゃいますね! こんにちは。私は天使協会所属の天使でございます。今日は死神様につく天使をお届けに参りました。」

「は、はぁ……」


 ちょっと何言ってるか分からず、曖昧な返事しか出来なかった。


「ほら、挨拶しなさいな!」

「はいっ! 俺は死神様の元で共に働く天使です! えと、な、名前はありませんっ! よ、よ、よろしくお願いしまっふ!」


 緊張でガチガチに固くなった声で、挨拶しろと急かされた天使は自己紹介をした。若い男性であることしか分からなかったが。


 ……えーと、噛んだことには触れても良いもんかな?

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