7(※)
資料とは違う人が死んだあの事件から数ヶ月が経った。今日も今日とて死神の仕事をこなす。ここ最近はもう一人で狩りに行ける程仕事も覚えた。まあ、まだ先代はいるけれども。
「おばあちゃん! 目を覚ましてっ!」
今日の仕事場は病院の一室。すすり泣く声と女の子の泣き叫ぶ声が絶えず聞こえる。お医者さん達が忙しなく動き回る音も声も聞こえてくる。
そんな中、静かにその病室の窓際に立ち尽くすのが一人。そう、私だ。今日も今日とて包帯で目をグルグル巻きに隠し、死神特有のローブも大きい鎌もある。
「やだっ! 死なないでおばあちゃんっ!」
無心に、無心に、と心の中で唱えながら、その時を待つ。
『そろそろ、かな。』
カツ、と誰にも聞こえない靴音を鳴らし、ターゲットに近づく。それと同時に大きな鎌を持ち上げる。
ピッ、ピッ、と生きている音を鳴らしていた機械。それが切れた瞬間を見極め、私はブンと鎌を振りかぶる。
目で物を見ることは叶わないが(何せ先代はいつまで経っても包帯を外していいと言ってくれない)、なんとなく何がどこにあるか気配を辿れるようになった。これも努力の賜物というやつだろう。
『それでは、魂は頂いていきますね。』
「いやぁーーー! 行かないで! 置いて行かないで!!」
ずっとターゲットに声をかけ続けていた女の子の叫び声が辺り一面に響き渡る。その声を背後に聞いていた私は心の中で謝りの言葉を思い浮かべ、じわりと目を熱くさせながらその場を離れた。
「ひーちゃんお帰り〜」
魂を持ったまま館の書斎に戻ってきた。すると呑気な先代の声が目の前から聞こえた。
「ただいま帰りました。じゃあ私は番人に魂を渡してきま」
「ちょっと待って!」
私の言葉を遮るようにして先代は大声を出す。珍しいこともあるんだなぁ、だなんて私の方が呑気にこの時は考えていた。
「ひーちゃん、お別れが来たみたい。」
「……はい?」
「だ、か、ら、お別れだよ。」
先代の言葉が理解出来ずに、私はまともな言葉が紡げなかった。ただただ
数回深呼吸して何とか頭を回そうと奮闘する。そしてやっと出来た言葉は疑いだった。
「な、何急に……冗談でも笑えないですよ?」
「冗談じゃないさ。僕、もう半分くらい消えかかってるし。」
「は!?」
ああ、目が見えない今の状況が憎い。この包帯を取ってしまおうか。そう思って包帯に手を掛ける。
「ダメだ! 包帯はこれ以降も付けていなさい。」
「だからなんで!」
誰だって見知った人が消えるだなんて聞いたら取り乱すでしょう。別れはいつだって悲しいものなのだから!
「大丈夫。ひーちゃんなら僕がいなくても死神の仕事を頑張ってくれる。そう信じてるから。」
「先代」
「ああ、でも頑張りすぎは良くないよ? いくら僕達はもう死んでるとは言え、無理をしたら疲れちゃうし。ほどほどにね。」
「待って、行かないで、一人は嫌!」
こんな広い館に独りでいるなんて、いくら視界を奪われていたとしても耐えられるとは思えない。孤独は怖い。死んだ時も孤独だったけど、あんな孤独はもう……
「それについては大丈夫だから! ……と、そろそろ本当にお別れだね。」
「待って! 先代!」
「大丈夫、大丈夫。心優しいひーちゃん。どうかその優しさのままでいて。」
その言葉を最後に、フワッと先代の気配が消えた。私はどうして良いのか分からず、ただ虚空に話しかける。
「先代、先代、先代……一人に……なっちゃった……」
ポッカリと空いた心の穴。生きているうちなら他の人と会って話して埋めていくものなのに、今、ここには私だけ。来客なんてものは今まで一度もないし、私が生きている人と会話するなんて不可能。
所謂詰み、というやつだ。
死ぬ前も孤独を感じていたが、
無音の中、気がすむまで涙を流し続けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます