6

 私には、何が起きているのか理解出来なかった。音だけで全てを理解しろ、だなんて土台無理な話だもの。


 しかし先代が珍しく焦った声を出したところを見ると、多分想定外のことが起きたんだろう。それだけは分かった。


『マズイ、これはマズイ……!』

『先代、何がマズイんですか?』

『マズイなんてもんじゃないよ……っと。』


 私と話しながらも、先代は鎌をブンと振りかぶった。魂の切り離しは予定通り行われたらしいが……何がマズイのだろう。要領を得ない言葉選びに、私ははやる気持ちで先代の次の言葉を今か今かと待つ。


『いい、ひーちゃんよく聞いて。ターゲットではない人が、死んでしまった。』

『……え?』


 無理やり自分の心を落ち着けさせるかのような声色で先代は私に今の状況を伝えてくれる。ターゲットではない人が死んだ、ということはターゲットはまだ死んでいない……? 今死ぬはずだったターゲットの代わりに他の人が亡くなってしまった……?


 はて、そんなことが頻繁に起きる事柄なのだろうか。……いいや、先代の慌てる様を聞いてその選択肢を一瞬で排除する。


『先代、でも、鎌を振った音は聞こえてきましたけど……それは?』

『死ぬはずのなかった第三者の体から魂が既に半分程抜けだしていてね、刈り取らないと逆に危険だから……仕方なくね。』


『刈り取らないとどうなるんですか?』

『僕もこんなこと初めてだからなんとも言えないけど、噂によると魂を切り離さないと死体に魂が残ってゾンビみたいに動き始めるって……』

『わあ、それはマズイですね。色々と。』


 ターゲット以外が死ぬことも、魂を切り離さないとゾンビ化することも。


 生きているうちには絶対知り得なかった新事実にあんぐりと口を開けて驚いてしまう。


『……じゃあ、まず、番人の所に行ってみよっか。』

『はい』


 二人とも戸惑いが消えないままであったが、一旦屋敷に帰ることに、そして魂の番人の元へ行くことにした。







「……ということで、ターゲットは死ぬことなく、代わりに他の人が亡くなってしまいました。」

「ほう……」


 所変わって魂の番人がいるあの空間にやって来た。そして先代がことのあらましをそこら辺にいるだろう番人に向かって話す。すると番人はふむ、と一瞬考え込む声を漏らした。


「……分かった。ではそちらの魂はこちらに渡して貰おう。後のことは我に任せるが良い。」

「分かりました。」

「あ、あのっ!」


 番人と先代の話に思わず横入りの声を上げてしまった。聞きたいことがあって。


「今回刈り取ってしまった魂は、どうなりますか? 悪いことにはなりませんか?」


 死ぬはずのなかった魂の処遇がとにかく気になった。


 本来ターゲットとなった魂は番人に渡した後次の転生までの順番を待つようになる、と先代から教えてもらったが、今回はどうなる? 浮遊霊みたいに転生出来ずに苦しんでしまうんじゃないかと心配なのだ。


 そんな私の質問に、番人はフッと笑った声が聞こえた。


「ああ。それは大丈夫だ。端的に言えばあの魂にはまだ余命が残っている。それを地球ではない世界で消費してきて貰えば良いのだ。」

「は、はあ……」

「お前達の馴染み深い言葉に例えるなら……『異世界転生』とかだな。」

「なるほど分かりやすいですね。」


 番人の言葉に先代は冷静に相槌を打つ。私もその一言でだいたいの想像が出来た。良かった、悪いようにはならないと知ってホッと一息つく。


「……ではまあ、次も頑張ってくれ。」


 番人のその言葉を合図に、私と先代はその場を辞した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る