5(※)
先代から目を包帯で隠せと言われ、今日から何も見えない状態で死神の仕事をこなすことになった。しかし今まで目を使わずに生活などしたことがなかったので、フラフラ歩けばすぐに何かにぶつかる。
「いだぁっ! ……くぅっ……」
「慣れだよひーちゃん! 頑張れ頑張れ!」
諸悪の根源は呑気に私の応援だけに励む。くぅっ……この痛覚だけ先代にあげることは出来ないのだろうか。そんな風に現実逃避をしながらまたフラフラと歩き始める。
せめて包帯を巻く理由くらいは教えてくれても良いのになぁ、だなんて考えながら歩いていたからか、今度は膝を何かにぶつけた。
「いだっ!?」
「さぁーて、魂の回収にレッツラゴー!」
呑気な先代に回し蹴りでも喰らわせたい気持ちになったが、先代すらも見えないから場所特定も出来ず、更に言えば仮に見えていても回し蹴りなんて一度もやったことがない。絶対こちらが余計にダメージを負うだろうことは想像に難くなかった。よし、やめとこう。先代、冷静な私に感謝して欲しいね。
脳内の先代に三回程回し蹴りを喰らわせながら、魂の回収に向かうことにした。
『えーっと今回は……花柳 みみ、享年十五、死因は失血死……ね。』
目が隠れている私に変わって先代が資料を読んでくれた。
……あれ、このままだと代替わりをして先代がいなくなった後、どうやって資料を読めば良いんだろう? 一人でどうにか出来るようになるだろうか。
こんな仕事糞食らえだ、だなんて考えながらも仕事出来るか心配する私って……意外と真面目なのかな?
そんな疑問や心配を抱きつつ、取り敢えず先代の後に続いて現世を歩くことにした。
ガヤガヤブォォーンと騒がしい。ここは多分人通り車通りの多い道なのだろう。見えないからなんとも言えないが。生前はこの喧騒の中にいたんだったよなぁ、と戻ってこない日常に想いを馳せてみる。まあ、戻りたくも無いけどね。
『えーっと……ここら辺だね。ひーちゃん、じゃあ魂の回収を』
「きゃー!!」
先代のその言葉に被さるように、悲鳴が轟いた。
客観side
『えーっと……ここら辺だね。ひーちゃん、じゃあ魂の回収を』
始めようか。
そう先代死神が言おうとした時。横断歩道橋の階段からふらりと落ちてくる人が一人。友達とふざけ合って足を滑らせたらしい。この人がターゲットの花柳 みみだろうことは容易に想像出来た。
「きゃー!!」
この後は死神用の『死者資料』の通り、花柳 みみは頭を強く打って失血死していく──
と、思われたのだが。
『え、ちょ、まっ』
現世の人間の行動に、先代死神が焦りを見せた。もちろん、ひーちゃんは目を隠しているので何が起きているか理解出来ずに首を傾げている。
先代死神が焦ったというのも、ターゲット花柳 みみが落下する地点には別の人がいたからだった。さらに言えばその人──おばさんと言っていいだろう年齢の女性だ──はターゲット花柳 みみを受け止めようと手を差し出していた。
死神ズ二人が女性の名前を知らないということは、今死ぬはずのない人間。だがこのままではどう転んでもターゲット花柳 みみよりも手を差し出す女性の方が下敷きになる位置取り。これでは『死者資料』通りには逝きそうにもないことが窺える。さて、どうしたものやら。
しかしそんな状況になったとしても、死神はやはり霊体という事実は変わらない。女性を助けることも、ターゲットを殺すことも出来ず、ただただ呆然と立ち尽くすのみ。
呆然と、『死ぬはずのなかった女性』の魂が彼女の体から抜け出る様を見ているしか出来なかった。
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