35

フルスモークのワンボックスカーが夜の街を走っていく。


これから街の半グレチームが集まる場所へ向かっていく。


しかもたった4人でだ。


だが、先ほどよりも車内のムードが明るくなっていた。


プロテックが音楽をかけ、カゲツは狭い車内で踊り出し、スクラッチも無表情を緩めている。


何よりもギンジュは笑顔を振りまいていた。


スクラッチに対する疑念が消え、わだかまりが解けたことで、抱えていた悪感情が消えたことがその顔から伝わってくる。


とてもこれから襲撃に行くとは思えない空気が、ワンボックスカー内を埋め尽くしていた。


「もうすぐ着く! 気合い入れてけよ、テメェら! 特にカゲツ! はしゃぎすぎてトチるんじゃねぇぞ!」


「さっきまで怖がってた人に言われたくないなぁ。プロテックのほうこそいきなり死なないでよぉ」


「俺が死ぬかよ。なんてったってこの後はギンジュのヤツの奢りでパーティーだ。死ぬならそのときにギンジュを破産させるまで飲んで死んでやる」


「ハハハ、それいいね。でも、今のでフラグが立っちゃったよ。プロテックはモブっぽいから気をつけてね」


「誰がモブだコラッ!」


プロテックとカゲツがいつもの調子で言葉を交わしている。


ギンジュがそう思っていると、スクラッチは彼に声をかけてきた。


それは先ほどの話――キジハたちを殺した犯人についてだった。


「まさか、スクラッチさんも探してたのか?」


「ああ、ずっとな。犯人の目星もついている」


「誰だよそれ!? どこのどいつがキジハさんたちをったんだ!?」


身を乗り出してきたギンジュを制止し、スクラッチは静かに答えた。


その話は、仕事が終わってからにしよう。


もちろんパーティーでギンジュを破産させるほど飲んだ後になと、握った拳を突き出してきた。


ギンジュは、スクラッチも冗談を言うんだなと微笑むと、彼の出してきた拳に自分の拳を重ねて応えた。


「やるぞ、ギンジュ。この街を掃除して、その後は犯人を潰す」


「ああ、わかってるよ、スクラッチさん。この街は俺たちが変えるんだ」


怪我の功名。


雨降って地固まる。


わざわいを転じて福となす、塞翁さいおうが馬などなんでもいいが、全員がギンジュの心根を知ったことで、4人の気持ちがひとつになっていた。


恐れるものなど何もない。


意気揚々と集会所へと走る車は、目的地へと到着した。


車を降りると、目の前に見える倉庫の周辺には照明が付いていた。


その灯りのあるところからは、騒がしい声が聞こえており、周りを見渡せば傷やへこみがそのままの車や、ダッシュボードにファーを敷いてる異常なほどに車高が低いバニングカーが並んでいるのが見えた。


誰でもわかる柄の悪い人間が乗る車の群れだ。


これらに比べれば、プロテックのフルスモークのワンボックスカーが、まだ普通の乗用車に見える。


ギンジュたちは声のするほうへと歩を進める。


それぞれ散弾銃と短機関銃を手にして、ゆっくりと歩いていく。


そして、ギンジュの手にはピルケースから取り出したスマートドラッグ――アンビシャスが持たれていた。


「3人は援護を頼む」


そう言って錠剤を口へと放り、噛み砕く。


車内で晴れた心に全能感が加わり、ギンジュはこれまでにないほどの最高に興奮状態になっていた。


昔とは違う。


出来ないことなど何もない。


今の自分には信用できる仲間がいる。


このスマートドラッグとカゲツたちがいれば無敵だ。


散弾銃をぶっ放しながらギンジュは駆けだした。


目の前には慌てだしている半グレの集団が見える。


だが、誰もギンジュには触れられない。


止めることなどできない。


アンビシャスで身体強化をした者を制することができるのは、後にも先にもキジハ、ヒバナ、そしてカゲツだけだと、ギンジュは高揚感をそのままに、その場にいた連中の頭を吹き飛ばしていく。


顔面が破裂し、花火のように血が宙に飛び散る。


「ハハハ! ギンジュに続くよ!」


カゲツが両手に持った短機関銃が火を噴き、プロテックとスクラッチも進みながら散弾銃をぶっ放す。


ギンジュの打ち上げた花火に追加するように、血の雨を降らせていく。


半グレの集団は拳銃を手にして反撃しようとしたが、まとまりがなく、おまけに同士討ちまで始まっていた。


襲撃者を撃とうにもこの乱戦だ。


さらにギンジュの動きが速すぎるのだ。


それに元々荒くれ者たちの集まりである。


キジハのようなまとめ役がいないチームなど、単なる烏合の衆でしかない。


「どうしたどうした!? こんなもんかよテメェら!」


いつもなら後方にいるプロテックがめずらしく前に出てきていた。


彼にも車内でのやり取りの影響が出ているのだろう。


溢れる高揚感が抑えられないようだった。


スクラッチは呆れながらも笑い、うかつに飛び出して行く彼とカゲツをフォローしていた。


倉庫前が流れる血と真っ赤に染まり、死体の山が築かれていく。


そこにいた男も女も、差別もなく慈悲もなく殺されていく。


「あらかた片付いたな」


スクラッチがそう言うと、ギンジュたちは辺りを見渡した。


もう誰も立っていない。


ここにいた100人近くいた半グレの集団は全滅した。


「おい、ギンジュ!? 血が出てんぞ! 撃たれたのか!?」


「えッ? ああ……」


ギンジュは自分でも気がつかないうちに撃たれていたのかと思うと、血を拭った。


しかしそれは、撃たれて出た血ではなく鼻から流れているものだった。


前にもあったなと鼻血を拭うと、急に手足がしびれ始める。


まったく言うことが聞かず、立っているのもきつくなる。


これはどういうことだと、ギンジュが呆けていると――。


「せ、せめて……テメェだけでも殺す!」


死体の山から立ち上がった男が銃を構え、ギンジュにその銃口を向けた。

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