13
それからギンジュは、電話でカゲツとどうでもいい話をしながら自分の今いる場所を伝えた。
すると、すぐに迎えに行くと言われたので、その場で待つことに。
飲み終えたミネラルウォーターのペットボトルを弄びながら待っていると、こないだ絡んできた大学生の集団が歩いているのが見えた。
彼らは真っ赤な顔をしながら大声を出し、いかにも酔っ払っているようだった。
こないだと変わらずに飲み歩いている様子からして、ギンジュに叩きのめされたことはもう忘れてしまったのだろう。
ギンジュは、大学生たちが肩を組んで笑い合っているのを見ていると、なんだか羨ましくなってしまう。
「あのくらいお気楽にいられればな……」
思わず呟く。
コウギョクが亡くなってから独り言が増えたなと自嘲気味に笑うと、猛スピードで走ってきたキャンピングカーが、ギンジュの目の前に停まった。
ギンジュが立ち尽くしていると、キャンピングカーの窓からカゲツが顔を出す。
「いたね、ギンジュ。さあ、早く乗りなよ」
「お、おう……」
言われた通りに車の側面に付いたドアを開けて中へと入ると、そこにはリビングスペースが広がっていた。
柔らかそうなソファーにキッチンと、明らかにキャンプには必要なさそうな外部ディスプレイがいくつも並んでいる。
奥にはベットが見え、その手前にはカゲツとキジハのふたりの姿があった。
ソファーの上で落ち着きなく立っているカゲツとは反対に、キジハのほうは煙草を吸いながらグラスを片手に座っている。
「えーと……おはようじゃなくて、こんばんは……? うわッ!?」
ギンジュがふたりに挨拶をすると、キャンピングカーが動き出した。
その勢いで転んでしまったギンジュが運転席のほうを見ると、金髪のワンレングスの娘――ヒバナがハンドルを握っている姿があった。
そういえば倉庫でも、ヒバナが車の運転席から出てきたことを思い出したギンジュは、彼女はこのチームのドライバー担当なのだと思っていると――。
「いつまで寝てるつもりだ。早く立ってソファーに座れ」
キジハに声をかけられた。
ギンジュは起き上がってソファーに腰を下ろすと、隣にカゲツが飛び込んできて座る。
突然並んできたので何か言うと思ったが、褐色肌の少年はギンジュのことを見つめてニコニコと微笑んでいるだけだった。
ギンジュがそんな彼に引きつった笑みを返していると、目の前にあるテーブルにデバイスが置かれる。
視線を目の前に座るキジハに向けると、彼女はそれを無言で見るように促した。
望み通りにデバイスを手に取ると、キジハが口を開く。
「今回の仕事だが、海外のマフィアと取り引きをする」
「えっ? あの……テストって話じゃなかったか?」
キジハはギンジュを無視して話を続けた。
今夜、アジア圏で勢力を持つマフィアに、貿易会社から奪った金塊を渡すと、何の説明もなく内容を伝えていく。
これから港へと向かい、マフィアの船の上で顔を合わせるから、ギンジュには他の仲間と共に船周辺を見張ってほしいとのことだ。
「情報が漏れてはいないと思うが、万が一ということもあるからな」
「ちょっと待ってくれよ!? いきなりそんなことを言われてもさ!」
「ならやめておくか? こっちは別にいいんだぞ」
キジハの鋭い視線がギンジュに向けられた。
その冷たい刃物のような眼差しに圧倒されそうになったギンジュだったが、すぐに表情を切り替えて答える。
「いや、やるよ。俺にはもう他に行くとこも待ってくれてる人もいねぇし」
「待ってる人ならいる!」
突然隣に座っているカゲツがすり寄ってきた。
カゲツは顔をギンジュに近づけると、必要のない大声を出す。
「ボクだよ、ギンジュ! そしてギンジュの行くとこはここ! キジハの仕切るボクらのチームだ!」
どうやらカゲツは余程ギンジュが気に入っているようで、まだリーダーであるキジハの了解も得ていないのに、ギンジュを仲間扱いした。
それでも、こういう彼の行動に慣れているのだろう。
キジハはフッと鼻で笑い、運転席からはヒバナの舌打ちが聞こえてきていた。
ギンジュもここまで言ってもらえると悪い気はしない。
どうしてこの褐色肌の少年がここまで気にかけてくれるのかはわからないが、変に自棄にならずにやってみよう、そう思えた。
「ケッ、ヘマして死ななきゃいいけどな」
「もう、ヒバナはすぐにそういうこと言うんだから。ダメだよ、そんなこと言っちゃ。仲間が死んだら悲しいじゃん」
「そいつはまだ仲間じゃねぇだろうが。大体わかってんのか? おまえが余計なことを持ち込んだせいで、ただでさえスケジュールがギリギリだった仕事がもっと面倒になったんだぞ」
不機嫌そうに言ったヒバナの言い分を聞いて、ギンジュは彼女に同意していた。
彼女たちが金塊を奪ったのが今朝で、取り引きは今夜だ。
当然、事前にいろいろと用意してからやっているのだろうが、あまりにも時間がない状況で、よくわからない男を仲間にしたいと押し切ったカゲツの神経はどうかしている。
ヒバナが怒るのも無理はないが、そんなカゲツのおかげで自分は生きているのだと思うと、ギンジュはなんだか複雑な気分になっていた。
「そのことはごめん。でも、おかげで心強い仲間ができたじゃん。ギンジュは絶対に信用できるよ」
「なにを根拠にそんなこと言えんだよ」
「勘だよ」
「……聞いたアタシがバカだった。キジハ姉さん、ちょっと飛ばすよ。誰かさんを拾ったせいで遅くなったからね」
ヒバナはそう吐き捨てるように言うと、アクセルをさらに踏み込んだ。
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