<日々是順調>
さて、いまだ継続期間未定とは言え、とりあえず順調に見えたふたりの「立場交換ライフ」だったが、始まって2ヵ月あまりが過ぎた頃、大きな問題が発生する。
年が明け、3学期が始まってしばらく経った頃、「未来」は私立中学の入学試験をいくつか受けたのだが、その中の本命──本物の未来が進学するつもりだった第一志望の星河丘学園中等部に落ちてしまったのだ。
滑り止めの涼南女学院には受かっていたものの、まさかの失態に、「未来」は顔面蒼白、対して「聖孝」は怒り心頭といった状態。慌てて斗至がとりなしたものの、「聖孝」は「星校以外には通うつもりがない」と宣言した。
「こうなったら仕方ない。ミキちゃん、君が責任をもって中学3年間、涼女に通うんだ。いいね?」
すっかり板についた男言葉で「聖孝」にキツく命じられた“従妹”の「未来」には、首をブンブンと縦に振るしか選択肢は残されていなかった。
(おやおや、コリャ、おもしろいコトになったな。ま、いっか。あの後、父さんから例の彫像を手に入れたって話も来ないし)
──などと斗至もお気楽に考えている。兄として、それでいいのだろうか? いや、彼の
ともあれ、そんな紆余曲折を経て、物語は冒頭の場面へと続くワケである。
* * *
「未来」の元に涼南女学院中等部の制服が届いた日曜の翌月曜日、彼女の所属する6年A組では、卒業に向けて皆で並んで記念写真を撮ることになっていた。
そのことは先週先生から告知があったので、クラスの女子の大半が、よそ行きモードでかなりオシャレしている。
その点は、もちろん「未来」も例外ではない。今日は、藍色と白のエプロンドレスに白タイツ、頭にヘッドドレスという、どことなくメイドさんを連想させる服装だ。
もっとも、長袖ワンピースは上質なベルベット地で、エプロンもヒラヒラと装飾性優先のデザインなので、メイド服と言うには少々華美過ぎる。あるいは「不思議の国のアリス」ファッションと言うべきかもしれない。
本来、この服は、未来の母が娘の誕生日プレゼントとして贈ったものなのだが、本物の未来は、義理で一度袖を通しただけでタンスの奥にしまい込んでいた。
それを、昨晩ワザワザ引っ張り出して来たのは斗至だが、「未来」の方もひと目見た瞬間から「素敵!」と瞳をキラキラさせ、喜んで着て行くと決めていた──「12歳の女の子に染まらないよう気をつける」のではなかったのだろうか?
登校すると「アリスちっく未来」はクラスの娘達にも「可愛い~♪」と大好評で、“彼女”は謙遜しつつも、誇らしい気持ちでいっぱいだった──いや、だから、それでいいのか?
ともあれ、一時間目のLHRの時間に無事に撮影は終わり、クラスの集合写真の中央付近に可愛らしいエプロンドレスを着た未来の姿が記録されたワケだが……おそらく、それが引き金になったのだろう。
これまでの“彼女”に蓄積された“因果の歪み”が、ついに表面化することとなった。
2時間目、教室で授業を受けている「未来」は、先程までとうって変わって身体に不調を感じていた。
(休み明けなのになんだか、頭がボーっとする…やだ、風邪かなぁ?)
そう意識すると、身体の芯に鈍い痛みがある気もしてくる。
「ミキちゃん、大丈夫? なんか辛そうだけど……」
隣席に座る女友達の千種が呼びかけてくるが、返事をするのさえ億劫だった。
「うーん……ちょっと気持ち悪いかも」
「どしたの、ボーっとして? もしかして寝不足?」
反対側の席の委員長のしずるも心配げに囁く。
「ううん、さっきまでは、何ともなかったんだけど……体育館、寒かったからかなぁ」
──ズクン!
ついに下腹部に鈍い痛みを自覚する。
「う……」
顔をしかめたところで事態を把握したのだろう、しずるが先生に呼びかけてくれた。
「蒼井せんせー! 霧島さんが気分が悪いそうでーす!」
担任の女教師に教室を連れ出されて保健室に向かう途中で、耐えきれなくなった「未来」はトイレに立ち寄らせてもらったのだが……。
すでに、女子トイレで用を足すことには何の抵抗もなくなっている。
「未来」は個室に入ると、へたり込むように便器に座った。
タイツと一緒にショーツをずり下ろしたものの、なぜか下半身に違和感を感じる。
下の方が、何かぬるつくような……。
(やだ、もしかして、ちょっと漏れちゃったのかな!?)
気になって脱いだショーツの中を見てみると、クロッチ部分が赤く染まっていた。
「い、ぃゃあああぁぁぁーーーーっ!!!」
トイレの中から響き渡る甲高い悲鳴に、慌てて外で待っていた担任が駆けつけて来たことは言うまでもない。
賢明な読者諸氏なら、おおかた予想がつくだろう。
結論から言うと、その日、「未来」は、生まれて初めての月経──いわゆる初潮を体験することになったのだ。
断わっておくが、「未来」の身体がいきなり女性に変化したワケではない。
少なくとも「未来」自身の認識では、視覚的にも触覚的にも、依然として陰茎があり、膣は無い。
ここ数ヵ月の生活習慣からか、身体全体から多少筋肉が落ち、幾分肌が白くなったような気はするが、それでも生物的には「♂」以外の何者でもないのだ。
それなのに、何もないはずのソコ──肛門と睾丸の付け根のちょうど中間にあたる会陰(えいん)と呼ばれる場所からは、じくじくと血が滲み出しており、それと同調するように下腹部に鈍い疼痛が居座っている。
幸いと言うべきか、担任の蒼井三葉は、年上の女性であると同時に小学校高学年の受け持ちと言う商売柄、「初めて女の子の日を迎えた女生徒」への対処は慣れていた。
てきぱきと「未来」の汚れを処理すると、保健室から持って来たナプキンをあてがい、同じく備品の生理用ショーツを履かせて衣服を整えてから、「未来」の身体を抱き上げて保健室のベッドまで運ぶ。
普段なら、よりによって妙齢の女性にお姫様抱っこされて運ばれるという行為は、羞恥心から拒んだかもしれないが、今の「未来」はそれどころではなかった。
(ど、どうして? なんで??)
女しか生涯味わうはずのない経験──生理。それを経験したことで、“彼女”はすっかり混乱していたのだ。
その日は、養護教諭の勧めもあって「未来」は鎮痛剤を飲み、4時間目までずっと保健室のベッドで眠っていた。
昼休みには、クラスでも比較的仲が良い、しずる・千種・マキの三人組が、お見舞いがてら給食を持って来てくれたが、薬を飲んでいても痛みは完全には収まっておらず、あまり食べることはできなかった。
「初めての時ってツラいのよね」
すでに“経験者”であるしずるは、「未来」の苦痛が理解できるからか、“彼女”に非常に同情的だ。「まだ来てない」ふたりと一緒に、「未来」も委員長のありがたい経験談と豆知識を神妙な顔をして拝聴することになったのだった。
「男性の身体なのに生理を迎える」という、世にも奇妙な(あるいは希少な?)経験をしてしまった「未来」。
無自覚ながら急速に形成されつつある乙女心(?)から、“お兄ちゃん”である斗至には内緒にしておきたかったのだが……。
学校から自宅に連絡があったのだろう。その日の夕飯の献立がお赤飯だったため真っ赤になり、兄を大いに萌えさせたことを付け加えておこう。
なお、この日の翌朝、「聖孝」の立場になっている未来の方も初めての夢精を経験し、布団の中で慌てるハメになる。
歳よりやや早熟とは言え、陰茎も睾丸もない肉体年齢12歳の女子が、朝起きると栗の花の匂いがする白濁液で股間を漏らしていたのだから、その心境は推して知るべし。
ただ、本物よりも数段肝が据わっている「聖孝」は、恥を忍んで斗至に電話し、何とか無事に処理できた模様。
その後も、斗至のアドバイスに従い、週に1度くらいのペースで「自己処理」するようになったので、それ以来、粗相はしていないようだ。
反面、某画像SNSで、「FutureFog」の描く女の子のイラストの露出度が上がってエッチくなったと一部で評判になるのだが……。
まぁ、それくらいは大目に見るべきだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます