第12話 安静厳守だけど、元気が出てきた

12月4日(土)

AM6:00

 起床。ハルに『おはようスタンプ』をラインする。


AM9:00

 昨日、ハルから「ニキビの薬持ってきて」とラインがきた。そうだ、そうだ、そう言えば、ニキビの薬も塗っていたなあ・・・・と思い出す。そういう事も、覚えていたんだ。良かった。

 ハルにラインする。

私:『火曜日に転院する予定なので、あまり私物が増えると移動が大変かな? と思っています。必要品を届けるのも、後一回くらいかなと思っていますが、どうでしょうか? 届けるなら、今日か、明日、かな』

ハ:『今日で。沢山持って来て。割と食うから』

私:『カロリーメイトはOK出たの?』

ハ:『でてない』

私:『じゃあ、ゼリーとヨーグルトだね』

ハ:『ほい』

私:『羊羹は食べた? 飲み物は?』

ハ:『炭酸追加で』

私:『了解』

ハ:『普通のお茶も』

私:『了解。冷蔵庫の中の写真送って』

ハ:『なんもない。飲み物はファンタ残ってる。あと麦茶』

 ええ! 前回、結構、たくさん持って行ったんだけど、もうないの~。


PM1:00

 夫と、ハルの所に向かおうと思って、車に乗り込む。夫が車のエンジンをかけようとすると、いつもと違う音がする。空回りしている様な音。何度か、かけ直すが、同じ音で、エンジンはかからない。こんな時に故障か? 夫が、もう一度エンジンをかけたら、かかった。夫曰く「プラグがかぶったのではないか?」との事。夫がいて、良かった。一人だったら、ロードサービスを呼んでいたな・・・・。

 エンジンがかかったので、出発する。ハルからのリクエストのゼリーや飲み物を探して、4軒もお店を回った。毎回、ゼリーやヨーグルトばかりで、お腹がタポタポになるんじゃないか? と思うが、仕方がない。でも、今日は、ご飯にかける「あられ(ハルの好物)」と、アイス(クーリッシュ)も紛れ込ませてみた。全部で大きめのレジ袋3つ分。


 病院に着くと、いつも通り、検温、受付、また検温。

 受付で、「今日初めて面会に来た」と言う感じの親子がいた。高齢のお母さんが「昨日、救急車で運ばれて、今、ICUにいるんです」と言って、息子さんらしき男性が「二人で面会できないの?」と聞いている。受付の人が「お一人様だけなんです」と、申し訳なさそうに言っていた。息子さんの声が、少し苛立っていた。気持ちは解る。私も、ハルがHCUにいた時は、同じ様な気持ちだったから。憎き、コロナウイルスめ!!

 ラウンジで、テレビカードを一枚買って、エレベーターで病室のフロアーまで行く。一人しか行けないので、夫は、また、ラウンジで待つ。

 インターフォンを押すと、イケメン看護師さんが来てくれたので、荷物を渡して、ハルに届けて下さる様にお願いする。ハルからは、洗濯物が届いた。伝言は「特に何もない」との事。いつもながら、あっさりしている。

 夫と二人で、帰宅。


 家族や知人に「病院に行ってきた」と言うと、「会えた?」とか「ハルくん、元気だった?」と言ってくれる人がいる。中には「お見舞いに行きたい」と言ってくれる人もいるが、本当に、コロナ感染予防で、面会規制が厳しくて、親でさえも、面会出来ないのが現状。私も、ハルの意識が戻ってから、2回しか顔を見ていないし、触れる事も禁止されている。ニュースや新聞などから、情報としては知っていたけれど、「それは、特別な病院だけでしょ」みたいな気持ちがどこかにあった。でも、本当に、面会できない。

 ハルは、高校生だから、親に会えなくても、泣いたり、淋しがったりはしていないだろう。これが、幼児や小学生だったら、病気の辛さ+精神的辛さで、本人も家族も苦しいだろう。そして、その間にたって看病される、看護師さん達も大変だろうな。


 ハルに渡す物を買って、車で届けるだけなんだけど、疲れる。夕食は、早めにすませて、ゆっくりしよう。


PM11:00

 のんびりと、映画を見ていたら、11時になってしまった。本を数ページ読んでいたら睡魔がやってきた。


12月5日(日)

AM6:00

 起床。日課の『おはようスタンプ』をラインする。

今日も、用事がない限り、ラインをするのを止めようと、自粛を継続する。

 日中は、ハルが使っていた三段ベッドの上段を取り払い、二段ベッドにする作業をした。ついでに、ハルの机周りもキレイにして、カーテンも洗った。

 ハルは、この三段ベッドの真ん中の二段部分で寝ていたんだけれど、背が伸びてきて、起き上がると三段目の板底に頭があたって、ここで毎日寝起きするのは、身体に悪そうだな、と思っていた。今回の事も、これが原因の一つじゃないか? と自分を責めていたので、二段にして、気になる事を改善出来て、スッキリした。


PM12:30

 ハルから『フジテレビのお笑い録画予約しておいて』とラインが来た。先日の鬼滅の刃といい、どうやって情報を得ているんだろう。


PM7:00

 ハルにラインする。

私:『今日一日、何をしていたの? DVD見た? 歩く練習、した? 声は、出るようになった?』

ハ:『ユーチューブ見てた。歩けるもう』


 ふと「ハルって、渡した御守、ちゃんとしまってあるのかな?」と思った。友人から頂いた物で、一つはリュックに、一つはお財布に入れるように言ったんだけど・・・・・。気になったので、

私:『御守2つ、渡したよね? 一つはリュックにつけて、もう一つはお財布に入れてねって言ったんだけど、やった? やってなかったら、直ぐにやって。バチが当たるから』

ハ:『ほい』

 と返事がきた。やっていなかったんだな・・・・。これから、手術だっていうのに、私達は、神様にお願いするしか出来ないんだから、粗末に扱わないで、と思う。


 転院先では、もしかしたら、少しは間食が許されるかも、と思い、ハルが好きな、クッキーと春巻きの皮のお菓子を作る。


12月6日(月)

AM5:00

 起床。ハルが死んだと報告される夢を見た。夢で良かったけれど、これから手術を控えているのに、そういう夢を見るって事が怖い。


AM6:30

 ハルに『おはようスタンプ』をラインする。


AM10:30

 スーパーで買い物をしていたら、ハルからラインが来た。

ハ:『リハビリいつ行くの?』

私:『来年。一番早くて2月3日だって。今、スーパーにいます』

ハ:『はい。了解。大学病院では、手術の後リハビリするの?』

私:『大学病院で手術。リハビリは、別の所にあるリハビリステーションと言う所でします』

ハ:『了解』

私:『明日、転院だから、お世話になっている看護師さんや、ドクターに、キチンとお礼を言ってね』

ハ:『り』(了解と言う意味だろう)

私:『明日、転院先に、飲み物も持っていった方が良いかな? アラレ、ご飯にかけて食べた?』

ハ:『アラレ、そのまま食ってる』

 :『12月16、17、20予定いれないで』

私:『何で?』

ハ:『友達と遊ぶから』

私:『無理です! まだ、入院していると思うし、退院しても、暫くは外出できないよ』

ハ:『さすがにもうしてないでしょ入院は。外出出来ないのは無理』

私:『だったら、2ヶ月くらい入院させてもらいますか? 入院か自宅安静、どっちかです。外出先で、また心臓止まったら、友達に迷惑かかるでしょ』

ハ:『それは困る』(外出出来ない事が、困るのだろう)

 :『友達と約束しちゃったし、委員会もあるし』

私:『まだ、約束しないで。早すぎ。もしかしたら、ペースメーカーを入れるかも知れなくて、そしたら入院長引くかも知れないから。その検査と治療があるんだよ』

ハ:『仕方ない。倒れる前に約束したし、委員会は俺がなんか言える立場じゃないし』

私:『委員会の事は、他の人がサポートしてくれるよ。友達との約束も、事情を知っているんだから、延期してもらえば良いでしょ。今、新種のコロナが広がっているから、外出も自粛しないと、あなたはワクチン3回目を打てないかも知れないから。そしたら、感染予防をしっかりしないと、危険だしね。取りあえず、約束は、病気が安定して、不整脈がでないと診断されてからにして。今も安静にしてないとダメでしょ? だから、明日の転院は、救急車で対応してくれるんだよ。病院の方々が、特別な事をして下さるんだよ』

ハ:『いいよ、延期はしなくて』


 この様なやりとりをして、ハルの考えの甘さと、軽率さに憤慨する。

 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」と言う諺があるけれど、今回の事は、家族や、学校の先生方、クラスメイトは、目の前で人が死にそうになって行く様子を見て、いろいろな感情が沸き起こり、泣いたり、悲しんだり、絶望的になったりし、最後には感謝の気持ちにもなったりと、いろいろな感情を経験したと思う。けれども、本人は、意識がなくて、目が覚めた時、その事の記憶もないから、反省とか、感謝とかっていう気持ちが薄いんじゃないだろうか? と思う。

 ハルは、学校の先生方や、クラスメイト、友人、ハルの為に祈ってくれた人達、病院の方々に、ちゃんと感謝しているんだろうか? 今までの不摂生な生活を反省して、改め様と思っているだろうか?

 HCUの医師が「ほぼほぼリカバリーできていると思います」とおっしゃってくれたけど、ホントに、前のハルと同じだ。何もバージョンアップされていない。


PM12:44

 学校の健康診断を行った医療施設の方と、電話で話をした。「WPW症候群の波形が出ているのに、何故、正常と判断されたのか?」と聞くと、「WPW症候群の振り幅が出ているが、それだけでは、WPW症候群とは判断できないから」と言われた。言い方が、威圧的で、こちらの意図・情報を引き出そうとしている感じの喋り方。

 ハルの病状を聞かれたので、「HCUは出て、安静中です」と言ったら「良かったですね」と言われた。ハルを「風邪で寝込んでいる人」ぐらいの扱いをする人だった。


 一旦電話を切ったあと、腑に落ちないので、再度電話をして「さっき言った事を、文章で下さい」と言ったら「それは、学校を通して、協議してからでないと、できない」と言われた。「何故、必要なんですか」とも。

 私は、この施設を訴えて、お金を巻き上げ様なんて思っていない。ただ、真実を知りたいだけ。そして、良い方向に変えられるのなら、変えたいと思っていた。なので、電話を切ってから、学校に電話をして、学校を通してお願いする事にした。


PM7:00

 ハルに、明日の事を、ラインで確認する。

私:『何時にそちらを出るの?』

ハ:『知らん』

私:『忘れ物をしない用に、身支度してね』

ハ:『はい』


PM8:00

 日中、ハルとしたラインのやりとりを、夫に見せながら「ハルって、倒れた事を覚えてないから、甘くみているよね」と言うと「うん。でも、アブレーション治療をしたら、基本、普通の生活をして良いって事でしょ」と言った。そうだけど、やはり、暫くは、安静にしていて欲しいと、私は思う。

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