第13話 転院(カテーテルアブレーションの説明)

12月7日(火)

AM6:00

 起床。今日も『おはようスタンプ』を送信する。


AM8:30 

 ハルに、『これから出発します』とラインをして、夫と、車で、大学病院に向かう。


AM9:30

 到着。早く着きすぎてしまったので、30分くらい車の中で時間を潰してから、受付に行く。

 私一人だったら、車の中で時間潰しなんてしないで、ハルが救急車で運ばれて来る様子を見たいから、外で待ち構えていたと思うんだけど、夫がいるので、そういう事はダブーだ。

 病院の受付に行き、ちょっとビックリする。病院というよりは、役所みたい。すごい人だ。受付の人も、皆、忙しそう。紹介状がない診察してもらえない様だ。

 何をどうしたら良いのか解らない。入院受付というカウンターがあったので、番号札を取る。4044番で10人待ち。

 待っている間に、居場所確認アプリでハルの行動を確認すると、9時40分くらいに、市民病院を出たようだ。10時半に到着出来るのかな? と心配していたら、10時40分には、到着した。(後で聞いた話では、救急車でサイレンを鳴らしながら搬送して下さった様だ)


AM11:17

 ハルから『7階の病棟のナースステーション来てだって』とラインが来た。丁度、その頃、私達も受付が終わって、7階病棟に到着していた。

 相談室に通されて、医師を待つ。待っている間に、入院の書類に目を通し、必要事項に記入をする。

看護師さんと一緒に、ハルが来た。一瞬、医師かと思った。自分の足で歩いてきたので。背が伸びたんだろうか、大きく見えた。顔色は良く、唇にも赤みが出ていた。ここでも、心臓の動きを見張ってくれる機器を入れたポシェットをぶら下げていた。

 そして、ここでの主治医となるI医師が入ってきた。思ったより、若い。そして、ジョークが通じそうな、気さくな感じの方で、安心した。挨拶の後、早速、手術の説明をして頂く。

《内容》

 心肺停止時間は、約17分。高齢者だったら、確実に、後遺症が残っているでしょう。

 原因は、突然、WPW症候群が起因するものと思われる心房細動が起き、心肺停止した。普通は、この年齢では起きない。すごく希なケース。

 ADEの解析によると、2回不整脈が起きている。

 WPW症候群で突然心臓が止まってしまうのは、確率で言うと約0.05%。

 手術は、足の付け根の静脈から3本のカテーテル、動脈に1本のカテーテルを入れ、心臓まで持って行き、焼き切る。

 だいたい、どこに副伝導路があるか目星はついている。左心房の下の辺り。モニターを見ながら、焼いていく。

 もしかしたら、心臓に針をさして、焼くかもしれない。その穴は、一ヶ月くらいで塞がる。

 右心房よりは、成功率が高い。99、9%は、成功する。

 一回で焼き切れなかった場合は、再度、同じ治療をする事になる。

 MRIの結果で疑われる心筋症に関しては、レントゲンの専門の方が、判定をして、その結果で、また、次の事を考える。

 手術は、9日(木)の午後。

 手術終了後、医師の話を聞く。

 結果が順調なら、次の日か、翌々日に、心拍のテストをする。

 一週間は、カテーテルを挿入した足の付け根から出血しないように、安静にしていて欲しい

 成功して、問題なければ、普通の生活が出来る。

 病院内での食事は、今日から好きな物を何でも食べて良い。間食も、周りに迷惑がかからなければ、OKとの事、

 I医師は、とても丁寧に、解りやすく説明して下さった。質問もしやすかったし、私達が不安な気持ちにならない様に言葉を選んで下さっていた。16才の息子を心肺停止で失いかけた事も考慮しながら、話して下さっていたと思う。

 I医師はこの手術を何度もされているそうで、自信をもってお話して下さったので、この方に全てをお任せしよう、と心を決める。

 お話の後、看護師さんが来て、また、いろいろな書類にサインをする。


PM1:00

 I医師の説明や、入院の説明と手続きが終わったので、看護師さんが、ハルの昼食を相談室まで持ってきて下さった。私達にも「階下にコンビニがありますから、何か買って、ここで一緒に食べても良いですよ」と言って下さった。感激! 久しぶりの、家族での食事だ。

 ハルに「コンビニで何か買ってこようか?」と言うと「唐揚げと、後、何か適当に買って来て」と言うので、自分と夫の昼食分と、唐揚げと、ハルが食べれそうなおにぎりや惣菜パンを幾つか買う。

 病院の昼食は、ハヤシライスと、スープと、和え物だった。ハルは、ハヤシライスだけ食べていた。

 昼食を一緒に食べながら、たくさんの言葉を交わした。「何でも食べて良いんだって。良かったね。お菓子とか、菓子パンとか、いろいろ持ってきたから」「ここはWi-Fiが使えるらしいよ。後で、手続きするね」とか、これからする手術を、ハルがどこまで理解しているか、説明しながら確認をしたりする。

 食後、ナースステーションで、Wi-Fiの手続きをする。使用料金は、2週間で二千円。

 コロナ感染予防中で、まわりの目もあるので、あまり長居は出来ない。持参したゼリー類、お菓子、パン、飲み物、テレビカード一枚、現金四千円を渡し、ハルとバイバイする。


PM2:00

 病院を後にする。

 帰りの車の中で、医師の説明で解らなかった事を夫に聞く。右心房・右心室。左心房・左心室。心室細動と心房細動。静脈と動脈・・・・紛らわしい単語がたくさん出てきて、聞いている内に、段々解らなくなってきたので。こういう時、夫は、医師の話をしっかり聞いていて、事前に調べたりしているので、頼りになる。


PM3:30

 帰宅。

 ハルにラインする。

私:『Wi-Fi使える様になった?』

ハ:『なった。鬼滅見た』

私:『タブレットも使える? お菓子も食べれる様になって良かったね』

ハ:『使っている』『うん』


 今夜から、ハルは、食事制限がなく、フリーWi-Fiで、ネットも見放題で、自由気ままを楽しんでいるだろう。部屋は2人部屋の窓側だった。同室の人が、優しい人だと良いな。


 I医師の話しでは、アブレーション治療の時、局部麻酔だけの人と、全身麻酔をする人がいるが、ハルは全身麻酔をして下さるそうだ。心の中で「今までの治療や投薬、絶食、トロミ食など、辛い経験をしても、あまり応えてないみたいなので、帰宅したら、また健康管理をしないで、不摂生をしそうだから、記憶に残るくらいの痛い思いをした方が良いんじゃないか? 全身麻酔ではなく、局部麻酔でお願いしようか」何てチラッと思った。

 I医師が「心臓に針を刺して・・・・」と説明された時、「心臓に針を刺すって、ちょっと怖いんですけど、ピアスの穴を開けるくらいの感覚ですか?」と聞いたら、「う・・・・ん、まあ、そんな感じかなあ」と言っていた。心臓って、凄いなあ。

 ハルは、I医師に「お風呂に入りたい」と言っていたけれど、それは、治療が終わってからの方が良いと言われていた。やっぱり、入りたいよね。今は、シャワーだけ。

 そうそう、帰り際、ハルに衣類を渡した時「俺、まだ紙オムツなんだけど、もう普通のパンツで良いかなあ」と言ったので、ビックリした。とっくに、パンツで良かったのに。紙オムツを、毎日交換していたって事? それとも、一枚をずっと? 看護師さん、言ってくれなかったのかなあ? でも、最初に着替えを届けた時、パンツも入れておいたんだから、自分で看護師さんに聞けば良かったのに。

 ハルの年齢(16才)で、WPW症候群が引き金で心房細動になり、心肺停止になってしまった事は、確率で言うと0.05%との事。そして、ここまで回復した事も、凄く低い確率だろう。それを考えた時に「じゃあ、今宝くじを買うと、どうなる?」なんて、時々、チラッと考える私。こんな冗談めいた事も、蘇生して、大きな後遺症も見当たらないから言える事なんだろうな。


12月8日(水)

AM5:30

 起床。今朝も『おはようスタンプ』を送信する。


 今日は、昨夜からの雨が降り続いていて、寒い。風も強くて、外に出たら、すぐに傘が反り返ってしまった。笑っちゃうほどのそり方だった。


 午前中に、市民病院へ、支払いに行く。途中、交通事故を見た。今、ぶつかったばかり、という感じで、後ろからパトカーがサイレンを鳴らしてやってきた。

 この道路は、ハルに荷物を届けに行く時に何度も通っているけれど、結構、事故現場に遭遇する。今回のハルの心肺停止もそうだけど、思わぬ事故や災害に巻き込まれたり、病が急変したり、そういう不運は誰にでも起こりえる事だ。一日を無事に過ごして、いつも通りに帰宅できるって、当たり前の事じゃないんだな。これからは、出かける時には「行って来ます」「行ってらっしゃい」と、顔を見ながら言う様にしよう。もしかしたら、最後の言葉になるかも知れないから。後悔しないように、心を込めて言おう。言葉には、魂が宿っているから、それが、無事に帰宅するための御守の言葉になるかも知れない。そして、帰宅したら「ただいま」「お帰りなさい」もしっかり言おう。感謝の気持ちを込めて、と思う。


PM1:00

 ハルにラインする。

私:『お昼ご飯、食べた? 明日は、手術前後、何時間食べられないか、看護師さんに確認してね。看護師さんの言う事を聞いてよ。「ちょっとくらいなら、良いだろう」はダメだよ。手術中に吐いて、窒息したら嫌でしょ? 明日、クロワッサン持ってくね』

ハ:『手術中に吐くの?笑』

私:『そういう事もあるよ』


PM2:11

 携帯がなった。I医師からだった。「ハルくんに何かあった訳ではなく、実は、緊急対応しないといけない人が出てしまったので、明日のオペを明後日に延期させてもらえますか?」との事だった。「はい、大丈夫です」と答える。ハルには、医師から伝えてくださるそうだ。夫にも、連絡を入れる。

 延期は良いんだけど、電話にドキッとした。


PM3:45

 ハルからライン。

ハ:『手術金曜日になったね。ってことは土曜日に走って(術後の検査の為の運動の事)土曜か日曜退院予定ってこと?』

私:『普通は、土日は退院出来ないよ。会計が休みだから』

ハ:『それは困る。非常に。火曜日は学校いきたいけん』

私:『行けません。手術の後は、一週間安静です。登校は早くて21日。でも学校に聞いてからね。まだ、友達と遊ぶ予定を入れないで』

ハ:『ドクターが、日常生活は大丈夫って言ってたじゃん』

私:『それは、術後、一週間たってからの話。静脈と動脈から出血する可能性があるんだから、しばらくは安静にしていて』

ハ:『金曜医者にきいてみよ』

 直ぐにでも、学校に行きたいんだなあ。


12月9日(木)

AM5:30

 起床。零時30分に、ハルからラインが来ていた。『明日身体を洗うタオルと石鹸持って来て』と。『了解。こんな遅くまで起きてないで』と返信する。


PM12:30

 車で、病院に向かう。途中、ハルの好きなパン屋さんに寄って、クロワッサンを2個買い、ドラックストアーでボディーソープを買う。

 大学病院へのこの道は、ハルが幼い頃に、水族館や釣りに行く時、何度も通った道だ。懐かしい気持ちと共に、あの頃の自分に合う事ができたら、この事を教えてあげたい。「アブレーション治療、早めにやっといた方が良いよ」と言う事も。


PM2:10

 病院に到着。ちょっと早かったので、近くを散策する。院内案内板もじっくりみる。上階にレストランがあったんだ。今は、コロナのせいなのか、閉鎖中だった。

 コンビニで唐揚げを買って、3時に受付に行く。もう、面会の列が出来ていた。名前や目的、熱や渡航歴などの質問表を記載して、熱を測って許可バッチをもらって、エレベーターでハルの病棟へ行く。

 ハルは、この病院では、車椅子ではなく、自由に歩いているので、談話室で待ち合わせをする。『談話室にいます』とラインを送ると、直ぐにハルが来た。洗濯物を受け取って、差し入れ品を渡たし、写真を一枚撮る。

「明日、手術だから、頑張ってね。夜、遅くまで起きてるの?」「暇で・・・・」「早く寝なさいよ」と言ってバイバイする。

 建物の出口で、許可バッチを返却して、駐車場へ戻る。全部で15分程だった。


 帰宅して、ハルから受け取った洗濯物を洗おうと思って、袋の中を見たら、使用済みの紙オムツも入っていた。捨てる場所が解らなかった様だ。

 

 夜、明日の手術の事を思い、何となく落ち着かなかった。ハルは、どう思っているんだろうか? 心細く思っていないだろうか? 普通は、怖いよね? 心配になってラインをしてみる。

私:『明日の手術、心配しなくて大丈夫だからね。ドクターは、凄く腕の良い名医様だから。今夜は、早く寝るんだよ』

ハ:『まあ、俺は、眠っているだけだし、後遺症とか残らないよう祈っとく』


 ハルが退院する前に、家にAEDを買って備えておこうと思って、ネットで検索してみたら、普通にアマゾンや楽天で買える事を知った。でも、かなり高額。定期的に、備品交換や、メンテナンスがあるので、購入してからもお金がかかる。何か他に、安心出来る、良い物はないだろうか? 夫と相談して「スマートウォッチはどうだろうか?」という事になった。埋め込み型除細動器(ICD)を埋め込む事になったら、こういう電子機器はダメかも知れないけれど、ICDをしないですむ状態だったら、スマートウォッチを買って、暫くは、心拍や心電図を監視したい。これは、私達親の、安心材料として。

 ハルに聞いて見ると、『アップルウォッチでいいと思う。クリスマスプレゼントもかねて。5万くらいする』と返事が来た。『えー!!』というスタンプを送る。まあ、いろいろあるから、調べてみよう。

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