第10話 主治医との面談・今後の治療について

12月1日(水)

AM6:00 

 起床。ハルに『おはようスタンプ』を送る。

 今日から師走だ。

 今朝の病院の朝食は、食パンと桃がでたらしい。マーマレードも。念願のパンが食べられて、良かった。

 結局、歯ブラシは、探したけれど見つからなかったらしい。ペットボトルの飲み物や、イヤホン(テレビ用)を持って来てとの事。いろいろなモノがなかったり、持って行ったのに、使っていなかったりしている。ハルのベットサイドは、どうなっているんだろう・・・・と思って、写真を送ってもらったけれど、見たい部分が写っていなかった。

 来週には病院を転院する予定なので、モノをなくさない様に、整理整頓はしておいて欲しい。届けた衣類も着ていない様だ。


AM10:00

 電気量販店へ、テレビ用のイヤホンを買いに行く。3メートルと5メートルがあった。病院のベッドで使うのだが、経験がないので、どの位の長さが必要なのか解らない。迷ったすえ、3メートルを買った。


AM11:45

 イヤホンの写真をラインする。これで良い? と。「あざす」「あとお菓子持って来てよ」と来たので、「何度言ったらわかるんだろう。脳のダメージか?」と思い、気になり電話をしてみた。

 前回よりも、声が出ていたけれど、まだ、かすれている。長くは喋れない感じ。お昼はハンバーグと、普通の堅さのご飯だったとの事。もう、普通食になったのか? それなら、お菓子も食べて良いんじゃないかな? と思って、一応、持って行く事にする。


PM12:00

 友人が、お守りを持って来てくれた。わざわざ、遠くの神社まで行ってくれたみたい。身代御守と書いてあった。ありがたい。ハルの今の様子を報告し、最後に、ハグして、別れる。

 ハルが倒れる以前は、友人とハグなんて、する事はなかったのに、今では、感謝の気持ちで自然とハグしたくなり、それが自然に出来る様になった。気持ちを表すのに、手を握ったり、ハグしたりするって、とても自然な事なんだな、と思う。


PM2:00

 仕事から帰宅した夫と一緒に、病院に向かった。


PM2:30

 病院に到着。15分程、車の中で時間を潰して、病棟に行く。

 今日は、ハルも同席しての説明会なので、念の為、不織布マスクを二枚重ねにし、夫にも、そうする様に言うと「そんな事している人、いるの?」と言うので、驚く。いるでしょ。

 検温、消毒、面会用紙に記入し、また検温して、エレベーターで7階まで行く。

 「相談室」という個室に通された。直ぐに、ハルが、看護師さんに介助して頂きながら、車椅子で入って来た。病院着に、赤いスニーカー姿。前回よりも、顔色は良いけれど、痩せ細っている。首には、ポシェットがかけられている。ポシェットの中からは、コードが2本くらい出ていた。何だろう。

 しばらくして、担当の主治医が入ってきた。若い。娘と言っても良いくらいだ。挨拶をして、説明をして頂く。

《内容》

 まず、ここまでの経緯説明。心肺停止の後、蘇生された状態で来た。脳低温療法で、35度を72時間保ち、そこから徐々に温度をあげていった。

 筋弛緩薬をつかった。気管挿管を抜いて、経鼻経管栄養を行ったが、誤嚥性肺炎を併発したため、抜いて、抗生剤を投与した

 心臓の図鑑みたいなモノと、主治医が書いて下さったイラストを併用して、「何故、そうなったのか?」「今後の治療」の説明。原因は、WPW症候群で、頻拍発作を起こした為。

 脳のMRIでは、目立った所見はなかったが、高次脳機能障害の恐れがある。それは、これから、リハビリなどをして、調べて行く必要がある。後で、ケースワーカーさんがくるので、通えそうな範囲で、その施設をいくつか紹介する。

 心臓のMRIの結果、心筋症の疑いもあった。これは、次の病院で検査をする。今後は、転院して、カテーテルアブレーション手術をして、その後、結果をみて、ICD(埋め込み型除細動器)を入れるかどうか、判断する。

 手術については、「どうしますか?」という提案ではなく、「もう決まり。これしかない」と言う感じだった。選択肢がないと言う事なのだろう。

 カテーテルアブレーション治療は、右足の付け根の静脈に管を入れて、心臓まで運び、心臓の正常な動きを阻害する余計なケント束を焼き切る。その時に、管を心臓に刺すと。局部麻酔と、軽めの全身麻酔をすると言っていた。また、全身麻酔? これをすると、また、気管挿管と経鼻経管栄養になっちゃうのかな、と思い「全身麻酔って、胃カメラを飲む時くらいのですか?」と聞くと「ああ、そんな感じです」とおっしゃったので、ちょっと気持ちが軽くなった。

 転院時、ハルは病院の車で、医師が付き添い、搬送して下さるので、私達とは、現地で合流する事になる。

 まだ、喉は狭くなっているので、食べ物に注意が必要との事。

医:「倒れる前と、今と、ハルさんとの会話で、何か思う事はありますか?」

私:「あまり会話はしてなくて、殆ど、ラインです。でも、いつも通りの感じです」

「普段から、あまり喋らない、無口な方なんですか?」と聞かれた。きっと、病院では、大人しいんだろうな。それで、皆さんが、心配して下さっているんだろう。「この無口は、後遺症なんだろうか」と。それは、私にも解らない。ラインでやりとりしている分には、いつも通りの感じだけれど、それだけでは、判断できない。

 もしかしたら、記憶の部分で、覚えが悪くなっているかも知れない。先ほどの、主治医の説明も、一緒に聞いていたのに、「いつ、手術するの?」なんて言っていたし、ラインのやりとりも、同じ事を何度も聞いてきたり、言ってきたり、私の質問に対して的確な答えがこない時もある。これが、後遺症か、もともとの能力なのか、今はまだ、判断できない。


 私は、先日届けた衣類の中に、ジャージを入れた。主治医から「リハビリをする」と聞いていたので、歩行等の運動をすると思っていたのだ。でも、まだ、そんなレベルではないと言う事が、今日、解った。主治医からの説明を聞く間、約一時間半ハルと一緒にいたけれど、覇気がなく、疲れた感じで、少ししか歩けない様だった。歩くと、ふらつくと言っていた。ジャージなんて、まだまだ必要ないくらい、弱っているんだろう。私は、ちょっと楽観的だったな。

 「誤嚥性肺炎になった」と言っていたけど、知らなかった。教えてもらってなかったから。もっと、聞いたら怖くなる事実が、他にもあるのかも知れない。怖いなあ。

誤嚥性肺炎を併発した話を聞いたら、「お菓子なんて、まだ、食べちゃダメでしょ」と思った。喉の通りも、戻っていないと言う事だったし。お菓子は、一応、持って来たけど、ハルに見せないで、持ち帰ろう。

 でも、ハルは、食に関して満たされない様だったので、ご飯を大盛りにしてもらう事にした。「残したら申し訳ないのですが・・・・」と躊躇しながら聞いたら、「残しても、良いですよ~」と軽い感じで言って下さったので。それで、ちょっと安心した。

 ハルに体重を聞いたら、41キロと言っていた(身長172センチ)。46キロはあったのに。悲しい。

 看護師さんと、ケースワーカーさんも、「病院の食事は、若い人には、のも足りないですものね」と言って下さった。ハルが、好き嫌いが多過ぎなんだけどね。

 持参した飲み物は、お茶、カルピス類、りんごジュースなど。これらは、飲んでもOKとの事だったので、ハルに渡した。


 次に、神経内科の医師との面談。この方も、若くて、息子と言っても良いくらいの年齢だろう。

《内容》

 今後、テンカンがでる可能性がある。

 「脳に酸素がいかなかった時間が長かったので」を3回くらい言っていて、「何分?」と思った。


 ハルが一緒だったので、今後の後遺症や、アブレーション治療の危険性などについて「本人が怖がるかな?」と思い、多くは質問できなかった。帰宅してから、ネットで検索したら、怖い記事ばかりが、心に残った。


 人は、誰かが死にそうになっても心配するが、生きていても、心配だ。生きている方が、心配事が多いな。死にそうだった時は、「どんな形でも良いから、生きていて欲しい」と、それだけを願っていたけれど、「生きている」とわかったら、歯磨きの事、食事の事、病気の事、学校の事、将来の事、次から次へと心配事が出てくる。死にそうになった時に、一般的に親が持つ期待や欲が、一旦ゼロになったのに、また、沸いてきた。前とは基準や質が違うけれど。

 しんどい。神様は、何故、人を作ったんだろう。心を持たない生き物だけで良かったのに、と思う。


PM4:30

 面談終了。ハルに、荷物を渡して、バイバイする。また、しばらく会えないな。

 帰宅途中、ハルからライン「Wi-Fiが繋がらなくてアイパット使えない」との事。どうも、病室の電波の流れが悪い様だ。「しょうがないね。次の病院で使えるよ」と返事を送る。

 今夜の夕食は何だろ。ハルが食べられる献立だと良いなあ。ちなみに私と夫は、カレー。すごく辛くて、胃が痛くなった。


PM10:00

 とても疲れた。せっかくHuluが見られるから、何か洋画でも見ようかな、と思いつつ、眠くなって、就寝した。ハルに送ったラインは、7時以降は、既読にもなっていなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る