第9話 ゼリーとヨーグルトの日々
11月28日(日)
AM6:50
よく眠った。
ハルに『おはようスタンプ』を送信する。
AM7:50
ハルから、朝食の写真が送られてきたが、お皿の側面が写っていて、中身が見えない。メニューは、何だろう。コッブが3つと、他に小豆色したスープみたいなモノが器に入っている。とにかく、まだドロドロ食で、あまり食べていないのだろう。
昨日差し入れした、飲むタイプのゼリーは飲んだと言う。病院食が食べられないのなら、許可を得て差し入れしたモノしか、食べる事ができないな、と思い『今日も、ゼリーを届けて良いか、看護師さんに聞いてみて』とラインする。
AM9:00
近所のドラックストアーに行き、ハルが口にできそうで、栄養価の高いモノを、いろいろと物色する。スポーツドリンクコーナー、ベビーフードコーナー、介護品コーナーなど。介護食の所に、高カロリーのゼリーがあり、ハルが食べれそうな「チョコ味」「あずき味」があったので、買ってみる。こういう高カロリーのモノを、チビチビでもいいから、食べてくれると良いなあ。
AM11:00
病院に電話をして「今日も、ゼリーを届けて良いですか?」と聞くと、「良いですよ。3時から4時の間に来て下さい」と言われた。ハルに、3時から4時の間に行く事を、ラインで伝える。
日中は、ハルと、何度もラインでやりとりが出来る。返事が来なくても、既読になっているだけで、安心する。「大丈夫、生きている」と。
AM11:30
病院から電話。ドキっとする。さっきの看護師さんからだ。
「ハル君が食事に手を付けていないのですが、好き嫌いが多い方ですか?」
「はい。そうなんです。すみません」
「コロナの関係もあるので、何度も来て頂くのも大変なので、少し多目に持ってきて下さい。今日は、日曜日で、主治医がいないから、食事変更の判断ができないので、次のステップにはいけませんが、気管挿管の影響だと思いますので、徐々に、回復するとは思います。それから、運動靴も持てきて下さい」
「運動靴は、HCUから移動する時に、持ってくるように言われたので、リュックに入れました。赤い紐靴です」
「わかりました。確認します」
との事。
ハルのお気に入りの、赤いPUMAの運動靴を入れたんだけどなあ。恐らく、ハルが、気がつかなかったんだろうな。
すぐにハルからラインが来た。『あった!』と。良かった。そして、次は、『スマホの充電器がない』ときた。『リュックに入れたよ。確認して』しばらくして、『ない』。おかしいなあ・・・・。取りあえず、家にあるモノの写真を送って『これで、代用できる?』と聞くと『できる』との事だったので、それも忘れずに、持って行こう。
PM1:00
スーパーに二軒寄って、ゼリー類を買い足し、病院に向かう。
PM3:00
病院に到着。売店で、トロミ剤を10本と、テレビカードを2枚買って、ハルの病棟に行く。インターフォンを鳴らすと、看護師さんが出て来て下さったので、荷物を渡す。
「ハルくんは、小食ですか? ご飯を食べないんですけど。日中も、ぼーっとしていて」
「たぶん、お腹が空いているんだと思います。好き嫌いが多すぎて、トロミ食が食べられないみたいです。アセトン血性嘔吐症になりやすいので、あまりボーっとしている様でしたら、点滴して頂く事って出来ますか?」
「わかりました。念頭にいれておきます」
「今日は、日中、ラインが既読になっていないんですけど、何かしていますか?」
「寝ている様でした」
「やっぱり。アセトン血性嘔吐症の症状が出ているかも知れないです。頑張って食べる様にラインしておきます」
エレベーターで階下に降りる途中、ハルからラインが来た。『充電器が入ってなかった』と。『入れたよ。テレビカードと一緒に』『今貰った』「お母さんは、帰るよ』『はい、ありがとー』
PM6:30
『何か、食べた?』とラインをするが、返事がない。気になって、電話してみた。そう言えば、声があまり出ないから、電話はしていなかった。出るかな? すぐに出た。でも、声が聞き取れない。かすれていて、苦しそうだ。「ハル、大丈夫?」「うん」「何していたの?」「Hulu見てた」「ご飯、しっかり食べてよ。また、アセトンになっちゃうから」「うん」「じゃあ、大事にしてね。またね」と言って、電話を切る。
私、また、口うるさい母さんになってるな。
ネットで、WPW症候群の事、アブレーション治療の事を調べる。気持ちがどんよりする。しないと危険だけど、しても危険がある。せっかく助けて頂いた命。前につき進むしかないのだろうか。
PM8:00
ハルからライン。食べた物の報告で、私が持って行ったゼリー類しか食べていない様だった。
私:『夕飯は、食べれた? チビチビでもいいから、頑張って、沢山食べてね。栄養つけないと、治りが遅くなるからね。小豆味とチョコ味の羊羹みたいなのが、カロリー高いからおすすめです。ドクターに、早く普通食にして下さいって、直談判してアピールして下さい』
ハ:『ほい。普通に食事できたら、もう終わりじゃね』(また、言ってる。現実逃避か?)
私:『手術はするんだよ。そーしないと、また、死んじゃうよ』(これ、言ったら傷つくかな? と思っていたけれど、ハッキリと言わないと伝わらないみたい。何せ、倒れた時の記憶がなくて、治療中の痛みや苦しみの記憶もないから)
ハ:『はいはい』
私:『イッテQ見てるの?』
ハ:『見てた』
私:『不規則な生活も、良くないよ。歯を磨いて、早く寝てね。消灯は何時? 消灯後も、携帯で、Hulu見たり、ゲーム出来るの?』
ハ:『できる』
私:『ほどほどにね。息や、心臓がドキドキしたり、少しでも具合が悪くなったらナースコールね!』
ハ:『します』
結局、家で口うるさく言っている事を、また、ラインで言ってる私だ。
11月29日(月)
AM6:00
起床。ハルに『おはようスタンプ』と、今日は、心臓のMRIを撮る予定なので、前後の食事制限や、歯列矯正をしている事や、耳栓して良いか? とか、自分で医師や看護師さんに確認して、言う事をしっかり聞くように、と注意事項をラインする。
AM7:15
返事がきた。
ハ:『MRIは、3日くらい前に、やった』
私:『それは、脳。今日は、心臓』
ハ:『なるほど』
私:『今日も、頑張って、食べてね』
ハ:『なんかパンとか買えないの? 飯不味すぎでむり』
私:『ドクターに聞いてごらん』
ハ:『次、来たら聞く』
ネットで「気管挿管後 食事」で検索すると、やはり、すぐに普通食を食べる事は無理みたいだ。嚥下機能が回復しないと、誤嚥性肺炎を起こしてしまうから。まだ、数日はドロドロ食が続くんだろうなあ。
AM9:00
ハルが、病院に搬送されてから、慌ただしくて、会計の事を何もしていなかった。病院からも、何も言ってこないし。27日(土)に病院に行った時、受付の人に聞いたら、平日、会計へ問い合わせをして下さいと言われたので、電話をしてみた。
「12月10日までに退院されるのであれば、その時にお支払い下さい。それ以上入院される様であれば、請求書がいきますので、一旦、その金額をお支払い下さい」
との事だった。そして
「ザックリですが、今の所の金額は、60万円です」
と言われた。HCUに3日間お世話になったので、そのくらいはかかるだろうと思っていたので、驚きはしなかった。何か書類を書くと、幾らか控除されるらしく、その説明を聞く。
AM10:00
神社でお詣りしてから、ハルが加入しているスポーツクラブに、退会届を出す。また、復帰できるカードを頂いたけど、使える日が来るかなあ。
そして、菓子折を買って、パート先に行き、退職の手続きをする。皆さん、心配して下さっていて、突然の退社でご迷惑をおかけした身なのに、暖かいお言葉を下さり、名残惜しい気持ちになる。こんな形で退職するとは思ってもみなかった。人生、何があるか解らないものだなと、実感する。
スーパーで、少し買い物をして、帰宅。
頭の中は、ハルの食事の事で一杯だ。どうしようも出来ないけど、どうにかならないかな・・・・と。
PM1:00
ハルにラインする。
私:『今、電話しても良い?』
ハ:『今、共同部屋みたいな所。無理じゃね?』
私:『部屋、移動したの?』
ハ:『した』
私:『どんな感じ? 同室の方は何歳くらい? 男の人?』
ハ:『チラ見で、八〇代男』
私:『へ~、食事は? まだ、ドロドロ?』
ハ:『今日、固形っぽくなったよ』
私:『写真見せてよ!』
ハ:『ほい。ドロドロ終わった』
と送られて写真を見て、感激する。普通っぽくなっていた!!
これで、一安心だ。栄養が摂取できる様になれば、きっと、グングン元気がわいて来て、次の手術に挑む為の体力がつくだろう。
PM4:15
ハルからライン。
ハ:『今日、くる?』
私:『あまり来ないで、と言われてます。来て欲しい? MRIは撮った?』
ハ:『撮った』
私:『そしたら、夕方、ドクターから報告の電話がくるから、自宅待機していないとダメなのです』
ハ:『了解。テレビカードもうひとつ、どこにおいた?』
私:『充電器と一緒に、ジブロックに入れたよ。リュックの中に、身体を拭くウェットティッシュを入れてあるから、使ってね。ないって言っていた充電器も、もう一度探してみて。ポケット全部ね』
5分後。
ハ:『充電器あった』
私:『その調子で、テレビカードも探してみて』
6分後
ハ:『あった』
PM5:00
主治医から電話。
《内容》
一般部屋に移った。お昼から、柔菜食になった。MRIを撮った。MRIの時に、歯列矯正は問題なかった。血液検査の結果も、クレアチンキナーゼと肝酵素の数値が高いけれど、薬の影響だと思う。明日、リハビリの評価をしてもらう予定。
「食べ物を持ってきて欲しいと言っているんですが、どうなんでしょうか?」「まだ、普通食ではないので、基本、病院で出されるモノ以外は、食べない方が良いですね」「ふりかけは・・・・」「それは、こちらでも用意できますので、次から、つけてもらいますね」
主治医との面談の日程が決まった。
PM5:30
ハルにラインする。
私:『ドクターと話しました。ゼリーとヨーグルト以外は、病院食以外の食べ物は、まだ禁止だって。ふりかけは、付けてくれるそうだよ。12月1日午後3時に、ドクターとお話します。ハルにも会えると思うよ。上着や服は、まだ要らない?』
ハ:『寒いから、欲しい』
私:『そうだよね、直ぐに欲しい?』
ハ:『ちょくで会えるなら、その時にもらう』
私:『取りあえず、看護師さんに相談して。何か、貸してくれるかもよ。今、風邪引くと、大変だからね。明日、持って行っても良いか、看護師さんに聞いてみて。パンツ、Tシャツ、靴下、ズボンとか、必要ないの? 不思議なんだけど。服、貸してもらってるの?』
ハ:『多分、無理よ』
私:『じゃあ、私が、電話して聞いてみる』
そう。ずっと、不思議に思っていた。衣類をどうしているんだろう、と。計画入院なら、そういうモノは、事前に用意して持参するだろうけど、ハルは緊急だったし、集中治療室が長かったから、ずっと病院着だった。下着は、まだ紙おむつ? 27日(土)にハルに合った時、病院着(甚平みたいなもの)で、前がはだけていて、寒そうだった。看護師さんに「着替えって、必要ないんですか?」と聞いたら「ああ、今の所、必要ないです」と言われた。一般病室に移動したんだったら、そういう事、説明してくれないと、解らないと思うんですけど・・・・。って言うか、ハル、そういう事、自分で看護師さんに質問して、連絡してちょーだいな、と思う。
すぐに、病院に電話をした。そしたら「ハルさんは、もう、一般室なので、病院着でなくても良いですよ。皆さん、パジャマなどを着ていらっしゃいます」との事。「では、明日、届けても良いですか」「はい。3時から4時の間でお願いします」と言われた。ああ、良かった。寒いのも、可哀想だもの。
ハルにラインする。
私:『明日、3時から4時の間に、届けます。寒かったら、お布団をしっかりかけて、温まって。毛布の追加くらいは、してくれるんじゃない? 夕食の写真、見せて』
ハ:『夕食食べちゃった(笑)』。
写真撮る余裕がないくらい、お腹が空いていて、食べたって事かな?
PM8:40
母に電話をする。「病院は、ミスをすると、評判が下がるから、そういう事は、ないよね。ハルの病院は、大丈夫だよね。そっちに行きたいくらい。何か必要モノはない? イチゴは? お金は?」と、いろいろと言っていた。
PM9:45
地震だ。小さい。震度2くらい? ハルがいる病院が、災害に遭わないようにと思う。
11月30日(火)
AM5:55
寝坊した。グッスリ眠り過ぎた。ハルが、食べれる様になり、安心したからかな。
AM6:15
ハルに『おはようスタンプ』を押す。
今日は、衣類を持っていくので、他に必要な物はないか、ハルにラインする。そして、一般室に移動したので、もしかしたら、病室の窓から駐車場が見えるかな? 見えたら、窓越しに立ってくれたらハルが見えるんじゃない? 確認してね、と書いてラインする。
ハルの衣類を、バックに入れる。下着と靴下は、5日分くらい入れておこう。ハルの愛用のタコの縫いぐるみも入れた。爪切りも。
AM7:40
ハルから『お茶と、クロワッサンが欲しい』と返事がきた。『お茶は、トロミ食から次の段階になったから、もしかしたら、OKかも。看護師さんに聞いて、OKなら、ラウンジの自販機で買って。クロワッサンは、まだ無理。何でも、看護師さんに聞いてから、口にいれてね。ハルは大丈夫と思っていても、身体の中は、まだ復活していないから。血液検査の結果を聞いたけれど、まだ、数値が正常ではない部分があるよ』と返事をする。
倒れた記憶も、昏睡状態の記憶も、その後のHCUの記憶(恐らく、睡眠薬のせいで覚えていない)もないので、病人で、まだ安全ではないと言う自覚がない所が恐ろしい。
AM8:30
見守りボランティアから帰宅し、ストーブに灯油を入れていたら、インターフォンがなった。友達が、有名神社のお守りを届けてくれた。昨日、わざわざ買ってきてくれた様だ。上がってもらって、少し、お喋りする。
頂いたお守りは、ハルに届けよう。これから、手術をするんだから、守って頂こう。
AM10:00
ハルから『綾鷹買えた』と、写真入りのラインがきた。おお! 良かった。また、一つ、進んだね。ハルは、まだ、一人で歩行できない様だ。コレも、車椅子に乗って、看護師さんに介助して頂いて買った様だ。窓越しに立つなんて、まだ無理だったね。
私は、ハルの意識が戻るまで、食事が喉を通らなかったけれど、吉報を頂いてからは、食べられる様になった。食べられる様になったら、今度は下痢になった。何日も続けて。でも、それも、今日から、治まってきた。ハルの食事の事で、一安心したから? また、人間の身体の不思議を思う。
PM1:30
病院に向かう。国道が、いつも混んでいるので、裏道を探して行ってみたが、結構時間がかかってしまった。
会計で、提出する書類を出し、金額と支払い方法を聞く。高額療養費制度というシステムがあり、従来は、一旦支払って、手続きをすれば、後から戻ってくると言う仕組みだったけれど、11月から、保険証の提示と、本人(未成年者の場合は親)の承諾があれば、すぐに確認して、制度が使えるとの事。この制度のおかげで、支払い金額が減額される。すごく助かる。
会計の説明は、30分くらいで終わった。病院の中は乾燥していて暑かったので、3時まで、外のベンチに座って、ハルに、ラインする。
私:『今、何しているの?』
ハ:『YouTube見てる』
私:『ジュースは飲んでも良いの?』
ハ:『うん』
私:『それって、自己判断?』
ハ:『綾鷹がいい時に自販機にあればみたいな。まあ飲んでないけど』と、呪文の様な返事。
私:『今日は、看護師さんに、衣類を渡すだけだけど、明日は、会えるから。お父さんと一緒に行くから』
ハ:『明日で終わり?』と、また解ってない様な事を言っている。今後の予定は、ラインで知らせてあるんだけど・・・・。どうも、これは、後遺症ではなく、もともとの能力の問題だろう。最後に『今日は、何しに来たの? 会わないの』ときた。もう! 送ったラインを全文読み返して欲しい。
3時になったので、ナースセンターに衣類を届けに行く。看護師さんが「何か用事があるかも知れないから、ハル君に確認して来ますね」と言って、ハルの病室まで行って下さったが、「何もないそうです」と言われ、帰る。アサッリしているハル。こんなもんだよね、高校生男子は。
夕方、『シャワー浴びた』とラインが来た。おお、また一つ、進んだ感じだ。
ハルの携帯の利用可能ギガがゼロになったと、携帯会社からメールが届いた。それで、ハルに『病院のWi-Fi使えないの?』とラインで聞くと、『Wi-Fiが届かない』との事。使用可能ギガがゼロになった事を知らせると、『まあ今日月末だし』との事。普段だったら、ギガがゼロになんてなれば、「追加して!」と大騒ぎするだろう。ちょっと大人になったじゃん。
PM7:00
ハルからライン。
ハ:『明日、何か、お菓子もってきてよ』
私:『ドクターが良いって言った? 看護師さんに聞いてみて。今日の夕食、柔らかいモノだった? おかゆ? ふりかけ付いてた? 例えば「お腹が空くので、パンなら食べて良いですか?」みたいな聞き方をしてみたら?』
と、いろいろと質問するが、まっとうな答えが返ってこない。
ハ:『あと歯ブラシ』
私:『ないの? 入院した時に渡したんだけど。ずっと歯磨きしてないの?』
ハ:『がち? どっかにありそう』
私:『探してみて。液体の口を濯ぐのも渡したよ』
ハ:『はい』
ホントに、心肺停止の前と、変わらないハルだ。
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