第22話〜超常と幻影③

…………。


結界の外、つまり城壁の外に向かって逃走すると思ってたから、城に向かってると分かった時は少しだけ戸惑った。


もしかしたら少しでも多く道連れにしようとしてるのかもと思ったけど、そんな無駄なことをするタイプには見えなかったから他の理由かな。


万が一に賭けてお姫様を暗殺に向かったのか、それとも城にいる内通者にコンタクトしようとしたのか。


それともまだ仲間が残ってることを期待しての遁走?


とにかく、やる事は変わらない。


速やかに排除する。


どうせ報告の為に夜更かししないといけないのは確定してるし、少しでも睡眠時間を長くしないと。


マグダイヤとして、速やかに終わらせる。


私の健やかな成長のためにも…!


…………。


さてと。


なりふり構わない全力の逃走。


身体強化すればすぐ追いつけるけど、移動速度と距離を考えたらギリギリ城内に入られるかも。


とりあえず逃げた暗殺者を追いかけつつ、ナイフを取り出す。


よし、せっかくだからあれを試そうかな。


最近練習してる、空間魔法とテレポートを応用した技。


斬撃のみを狙った座標に飛ばす暗殺技。


まずナイフを超能力で高速振動させる。


これだけで切れ味は何倍にも跳ね上がる。


そして移動する標的の座標を空間で把握して…


「よっ」


振り抜く!


一瞬だけ繋がった空間越しに標的を切った手応え。


さすがに空間と空間をずっと繋いでいるのは魔力的にも脳の処理容量的にも危険だけど、一瞬なら何回かはいける。


でも動く相手は初めてだからか、首を狙った一撃はズレて片脚を切り落としただけだった。


「まだまだ練度不足、だね」


それでも普通は片脚を無くせば戦意喪失、というかそれ以前に痛みと大量出血で遠からず無力化できるんだけど。


まるで獣みたいに両手をついて、残った片脚で蹴り出すように走ってるよ。


ほんと、勿体無い。


あそこまでの実力をつけるのに、覚悟を持つのにどれほどの地獄を見てきたんだか。


だからって手心は加えないけど。


片脚を失ったことで減速した標的に追いつく。


「もうおやすみよ」


せめてこれ以上の痛みなく、最期は苦しむ事なく。


今度こそ首を獲る。


勢いのままに地面に転がる胴体。


宙を舞う頭部を優しく受け止めて、そっと目を閉じさせる。


「あと、一人」


…………。

…………。


「さすがだ。あの齢にして彼らが認めるだけのことはある」


王城のテラスから、ニーナを見下ろす影があった。


「兄弟子として、彼女にはご褒美をあげないといけないな。しかし、どうしたものか。文字通り油断も隙もない。次の一手は……そうだ、あれにしよう」


影は愉快そうに笑い、溶け込むように闇に消えた。

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