第21話〜超常と幻影②

…………。


任務は失敗した。


それはあの侍女姿の幼女から言われるまでもなく分かっていた。


合図もなく、戻ってくる者もなく、騒ぎになる気配すらなかった。


一体どれほどの暗部が動いているのだろうか。


事前情報にあったこの国の暗部の実情には誤りが……いや、偽情報を摑まされていたのか。


我が国の暗部の実力はまとめ役の自分が一番よく知っている。


今回作戦に参加した者には一人として三流はいない。


決して表舞台には出ないが、国の為に任務を遂行し続けてきた精鋭たちだ。


それがこうもあっさりと…。


あの一見すると幼女に見えた化け物は、おそらく長命種のエルフかそれに類する種族、もしくは混血だろう。


化け物、そう、化け物だ。


見た目通りの幼子なわけがない。


あの化け物の接近に気付けたのは、こちらの実力を測るためにわざと気配を僅かに漏らしていたからだ。


こちらからの攻撃も難なく対処してみせたあの反応速度も余裕が見れた。


あれが指揮官か?


ただの使いのわけもないし、しかしならばなぜわざわざ姿を現した?


とにかくこの情報だけでも、あの化け物のことだけでもどうにか本国に伝えなければならない。


城壁を境に張られた結界のせいで通信の魔道具が使えないのがもどかしい。


おそらくは逃げきれない。


¨このままでは¨。


だからとにかく全速力で逃走する。


¨城に向かって¨。


可能性があるならば、奴だ。


正式な部下ではないが、本国が任務達成のために用意した隠し玉。


奴ならばただではやられたりはしない、はずだ。


奴ならば情報を持ち帰られる可能性が…


不意に左脚が胴体から切り離された。


気配は感じない。


追いつかれて斬りつけられたのか、罠にかかったのか。


とにかくバランスを崩して勢いのまま転がるが、その勢いすら利用して態勢を整えて両手片足の3本足で走る。


止血している暇はないし、どうせ助からないのだから。


もう城まで間もない。


あいつの性格からして、恐らく兵士の詰め所付近にいるはず…


「もうおやすみよ」


再び気配もなく音も光もなく、透明な刃が体の中を通り抜けていく感覚。


視界が回る。


首のない胴体が目に入る。


どうやらここまでのようだ。


急速に色を失っていく視界に、幼い姿の化け物が写った。


闇夜に輝く白銀のごとき白髪に、鮮血を思わせる真紅の瞳。


先ほどの侍女の姿でもなく、髪や瞳の色も違うが、間違いない。


(ああ、そうか…)


きっと彼女の正体は悠久の時を生きるという吸血鬼に違いない。


恐ろしく、そして、美しい…

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