第15話〜超常は見逃す

…………。


淡々と暗殺者の2人の死体を片付ける、まだ少女と呼ぶにも幼い侍女。


しばらく死体の頭に手を当てていたのは祈りでも捧げていたのだろうか?


行動理由は不明だが、それ以外の動きは手慣れていて明らかに普通の侍女ではない。


部下に経験を積ませるはずが、2人とも失うことになるとは思わなかった。


(潮時か)


時間と手間をかけた毒殺が露見し、焦った依頼主から無理な強硬手段を命じられたせいで部下を2人も失った。


前情報と下調べだけでは対処できなかった想定外。


今回の侵入と暗殺未遂、正確には王族掠取だが、失敗した以上今後はより警戒は厳重なものとなる。


本来ならば極秘のはずの王城の経路図、衛兵の巡回情報の漏洩。


依頼が失敗した今、依頼主はこれで終わりだろう。


組織の評判に響くが、致し方ない。


あの小さな侍女は得体が知れない。


どうも嫌な予感がする。


ここは引くのが賢明だろう…。


…………。


「……行ったね」


脳から読み取った情報から、この男たちの上司が背後に控えているのは分かっていた。


気配を殺すのが上手いから、意識して生命探知をしなければ見落としていたかもしれない。


引き際を弁えたいい暗殺者だね。


読み取った情報からも相当な腕前であることは分かってる。


もしあのまま排除に来られたら相当苦戦しただろうね。


一旦男たちの死体を隠して、上司の隠れていた場所まで行ってみたけど、痕跡らしい痕跡は一切残されてなかった。


「……でも、魔力の残滓は辛うじて残ってる」


正確には、サイコメトリーで読み取った、過去の残滓だけど。


空間に残された記録は、さすがに消せないもんね。


時間が経過するほどに読み取るのが難しくなるけど、そう時間の経ってない今なら問題ない。


僅かにでも痕跡が残されていれば、それをもとに追跡できるよ。


「だけどさすがに、これから追いかけて、仕留めて、情報を手に入れて、なんてやってたら時間がかかり過ぎるんだよね…」


今の私の立場は王女様付きの侍女。


当初の調査のための自由行動も、あそこまでお気に入りになってしまうと意味がない。


全てを一晩のうちに終わらせるのは、難しいかな。


それに万が一だけど、私が王城を離れている間に何かあれば…


まぁ対処できなくはないけど、さすがにそんな状態であんな手練れを相手にはできないかな。


……よし。


「見逃そうっと」


もう魔力の波長は覚えたし、どこにいるのかだけ把握しておこう。


私は踵を返して、侵入者2名の報告をするために歩き出すのだった。

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