第12話〜毒も薬も調理も調合も

…………。


今日もサーラ殿下の身の回りのお世話、というより遊び相手をこなし、長い1日を終えた。


サーラ殿下は余程妹的な存在を求めていたみたい。


けど扱いはまるでお人形だ。


昨日の着せ替えから今日はリボンやら何やらで飾り付けられ、髪をいじられた。


こうも身に付けているものを取っ替え引っ替えされては暗器も小道具も仕込めない。


そんな物なくても大丈夫ではあるけど、さすがに困った。


これが毎日続くようだと本来の任務に支障が出る。


適度な距離で、侍女に徹したかったのに。


かと言って洗脳したり催眠をかけるのは気が引ける。


今の体だとあの子は年上ではあるけれど、私からしたらサーラ殿下は家族に飢える子供でしかない。


だから…


あまり仕事に私情は持ち込みたくないけど…


あの子を害しようとする奴のことは、見逃さないし許せないな。


…………。


昼食を一緒にするまではよかったけど、さすがにアーンだけは固辞した。


何でもかんでもはいはい頷いていては本当にお人形さんだ。


それはサーラ殿下のためにも宜しくない。


一応は侍女としての仕事も任務の内、だからね。


その後は一緒にお茶を楽しみ、空いた時間は何かと振り回されて。


そして夜はサーラ殿下の要望で一緒のベッドで眠る事になった。


可愛らしいフリフリの寝巻きを着せられて、お人形のように抱きしめられて。


ほんと、どうしたものかな。


…………。


サーラ殿下が深い眠りについてるのを確認して、ゆっくりとその拘束から抜け出す。


その寝顔は年相応で、安心しきった弛んだもの。


やれやれ、自分が今まさに¨暗殺されかけている途中¨だとは夢にも思ってなさそうだ。


…………。


部屋を出て、一度自分にあてがわれた部屋に寄って服を着替えて向かったのは、城の奥まった位置にある応接間。


そこには国王陛下と、初老の執事、そして近衛騎士団長がいた。


調査に進展があったり、報告したい事項があれば暗号にして手紙を暖炉の奥の隠し金庫に入れておく手筈だった。


昼のうちに入れておいた報告書を読んだ国王陛下は、初老の執事経由で今夜この応接間に来るように伝えてきたのだった。


無駄に長くて形式ばった挨拶は省略するように言われているので、単刀直入に伝える。


「……毒です」


「……何?」


眉を顰めてこちらを見る彼らの顔には一様に納得のいかなそうな表情があった。


「複数の者に毒味をさせてちたはずだが」


「毒味は舌が鈍らぬよう二人体制で、行っております。食器類はもちろん、普段使いされる茶器に至るまで直前に決まった者が手入れをします」


「毒味は1日ごとの交代ですね?」


そう尋ねると、執事のお爺さんが頷く。


「毒の蓄積です」


「蓄積、とな」


「食べ合わせ、というよりは複数の微弱なものが合わさることで猛毒へと変化するのです。数日かけて蓄積した毒は、新たに蓄積した毒が合わさる事で致命的なものへと変化する…」


これでも暗殺者として育ってきた。


薬剤の知識は多少、いや、相応にはある。


伊達に薬漬けの人生なんて送ってこなかったし、ね。


それは違うか。


「食材の搬入などの管理をしている人をあたってみて下さい。ここ数日、もしくは少し前から取引先が変わったりとかしてませんか?」

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