第11話記憶の根幹

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ギチギチと全身を締め上げる、夥しい量の拘束具。


日に日に増えていく、注射と薬の山。


何度も針で刺され、暴れる度に拘束具で擦れた両腕には、ペンキで何度も殴り書きしたような傷跡が重なっていた。


閉じ込めることだけを目的とした独房にもいつしか戻される事もなくなり、常に全身を押さえつけられ、包み込まれ、縛り付けられていた。


目隠しされ光など届かなかったが、常に頭の中で様々な光が弾けては消えていった。


もう研究所に来るまでの記憶は苦痛に上書きされ、己の名さえ番号に書き換えられた。


考える事など放棄し、ただ茫然と過ぎ去る時に身を委ねるだけ。


己の肉体と意識はいつしか乖離し、精神は粉々に分たれ、幾つもの自身がたった一つの身体を眺めていた。


それらはバラバラに、それでいて寄せ合うように一つの肉体を巡っては消えて、そして現れた。


いくつもの光と色が生まれては混ざり合い、形を変えて、一つになり、そして…


…………。


差し込む朝日にまぶたが震える。


もう朝か。


体は時間通りに起きてしまう。


昨晩は人の目を掻い潜って城中を回っていたから、少しだけ眠い。


この体はまだまだ成長期なのだ…


「……綺麗な服を着れるのは、素直に嬉しかったかな」


昨日の事を思い出すと、少しだけ温かい気持ちになる。


家族から与えられた愛情以外に、あんなにも周りから好意的にされたのは初めてだった。


もちろんこの小さくて、可憐で、可愛らしい見た目だからだろうけど。


うん、自画自賛、自画自賛。


鏡に映る私は今日も可愛らしい。


ついでに髪の毛もチェックする。


城に来る前に念入りに染めたから、まだしばらくは問題無さそう。


染料は持ってるので問題ないけれど、無駄に怪しまれたら変な印象を残すのはよろしくない。


「さて、と」


早く身支度をして、王女様のお世話に行かなくては。


まだまだ時間はあるけれど、だからといって無駄に惰眠を貪っては意味がないどころか害悪ですらある。


普通に起きて使える時間があることの幸せはしっかりと享受すべきだ。


さて、手始めに厨房の中の点検とお姫様の朝食の毒味、そして身の回りの人たちに不審な人物が紛れていないかの調査から、かな。


…………。


「おはようございます、サーラ様」


「おはよう、ニーナ。ようやく名前で呼んでくれたわね。できれば様も取ってサーラと気軽に呼んでくれてもいいのよ?もしくはお姉様でも。うん!サーラお姉様って呼んでみて?ニーナ」


「お、畏れ多いです、サーラ様」


サーラ殿下は現国王の第三子であり、長女でもある。


上に2人の兄、下には2人の弟。


元々この国の王族は男系らしいけど、やはり同性の家族が欲しいみたいだ。


「いいから!これは命令よ?サーラお姉様と呼びなさい」


マグダイヤの一員として、あまり王族と馴れ合い過ぎるのは宜しくないんだけど…


場合によってはクーデターを企てる王族の始末も、マグダイヤ一族の仕事なのだから。


ここは嫌われるのを覚悟で強く拒むべき?


さすがにお姉様と呼ばなかったから罰を与える!なんて事にはならないはずだけど。


いや、けどまだ2日目で根回しも出来てない今、護衛対象に邪魔をされるのも得策じゃない、か。


ええい、ここまできたらやるだけやろう。


私より背の高いサーラ殿下を見上げるように、できるだけ年下の子が甘える時のような感じで!


そう、クリスやアルが私に甘えてくる感じでいこう。


「サーラ、お姉様?」


「⁉︎」


部屋の端で待機していた侍女たちからキャーと小さな歓声が上がった気がする。


サーラ殿下も頬を赤らめて満足気なご様子。


はぁ、初めての護衛任務だけど、先が思いやられるなぁ。

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