第3話〜温もりを知った超常の実

ああ、またか。


¨私¨は柔らかな布に包まれながら思った。


¨私¨の両親と思しき人たちが、¨私¨のことを抱き上げてくれることはなかった。


愛してくれることもなかった。


若くて綺麗な見た目の人たちだった。


男の人は真面目そうな人だった。


女の人は柔らかな雰囲気の顔立ちだった。


けれど2人とも、その目には怖れと怯えがあった。


あの人たちも¨前世の両親¨と同じだ。


超能力を持って産まれてきた¨私¨のことを怖れ、理解出来ない力に怯えて遠ざけたあの人たちと。


今回はなぜだろう?


まだ超常の力は使っていないはずなのに。


それほどまでにこの¨私¨は醜いのだろうか。


その心を読み取ることはできなかった。


苦痛から解放された今、研究者たちの無機質な精神とは違う、普通の人の心に触れて拒絶されてしまえば、¨私¨は…


…………。


「ーーー、ーーーーー。ーーーー!」


「ーー、ーーー!ーーー……」


何を言っているのか分からない。


精神を読み取れば言葉を介さずに意味を理解することはできるけど…


そんな事はもう、¨どうでもいい¨。


やはり生まれ変わっても愛されることなんてなかった。


周りの人たちの目を見れば分かる。


独りで生きていくことにも違いなんてなかった。


前世では無機質な白い部屋で。


今世では暗く殺風景な部屋で。


違いなんてほとんどない。


また無意味に生きて、そして他人の都合で死ぬのだろう。


…………。


ああ…。


地下室で、産まれたばかりの自分の世話をしていた乳母。


その死体の首から噴き出た血は暖かかった。


前世でも今世でも誰かに抱かれた記憶などない¨私¨だけれど、初めて知った温もりが死に行く人の血液だなんて、つくづく呪われている。


あの乳母は決して私に直接触れようとはしなかったな…


けれど、


「ーーー。」


「ーーー、ーー?」


「ーーーー。」


目の前で乳母を殺した男。


そしてその後ろから現れた女。


その明らかに常人ではない2人が。


凍りついたような瞳をしたこの2人が。


初めて。


初めて¨私¨を抱きしめてくれた。


なぜが体が震えた。


産まれた時ですら涙を流さなかった¨私¨の目から涙がこぼれた。


乳母の血に塗れた¨私¨を躊躇うことなく抱き、その冷たい双眸からは想像できないほど優しく撫でてきた男。


まるで薄氷のように壊れやすい宝を抱くように¨私¨を優しく、それでいて力強く抱きしめた女。


なんだ。


すぐに冷たくなってしまう血液なんかより、この二人の方が何倍も温かくて、思いの外心地いいじゃないか。


それが今世での”本当の両親”との出会い。


初めて¨私¨に家族ができた瞬間だった。

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