第2話〜超常の実は今…
とある貴族の家に赤子が産まれた。
待望の第一子だった。
しかし赤子は死産として扱われることになる。
何故ならばその赤子は生まれつき両目が紅く染まっていたからだ。
更にはその肌は病的なまでに白く、僅かな産毛も色素の抜けた白。
これは時折産まれるという忌子の特徴だった。
貴族である両親はその子の存在を地下室に閉じ込め、幽閉することにした。
忌子とはいえ殺すことは出来なかったというのが本音だろう。
夫婦の間には確かに愛があり、そして長らく子供ができずにいたのだから。
…………。
しかし赤子は長く地下室で生きることはなかった。
屋敷が複数の侵入者に襲われ、火がかけられたからだ。
その貴族の家はしばらく前に政争で不穏分子を排除したことがあったのだが、その裏に対立派閥の重鎮がいたことに気付けなかった。
故の報復だった。
屋敷にいた夫婦を含めて、使用人達も全員殺された。
見せしめのように死体は全て首が落とされていたという。
地下室にいた使用人も、忌子の世話をしていた乳母も殺された。
そして…
忌子だけが残った。
…………。
侵入者たちは王国では有名な暗殺者の集団だった。
その構成員の全てが血族であり、結束は固い。
惚れ惚れするほどの手際で、誰一人に自身の死を悟らせることなく、最小限の手間で手をかけていく。
人の命を奪う悪魔の如き所業でありながらも、芸術的ですらあった。
人の命が軽く、簡単に踏み躙られるこの世界。
苦痛を与える事なく、しかし確実に命を狩るその姿を見た者がいれば、慈悲深いとさえ言うかもしれなかった。
それぞれの仕事を終え、集まった暗殺者たち。
その中の一人が、屋敷の住人全てを始末したはずが事前の調査にあった人数と合わないことに気づいた。
そのリーダー格の男はすぐさま地下への隠し通路を見つけ出し、仲間の一人と共に進入する。
そしてちょうど赤子に授乳していた乳母を見つけたのだった。
例えそれが本当の親子であったとしても男の手が鈍ることはなかっただろう。
乳母は最期まで赤子を抱いたまま、気付くことなく逝った。
男は容赦なく乳母の血に染まる赤子にも手をかけようとして、しかし薄皮一枚の所で持っていたナイフを止めた。
その瞳は氷を思わせるほどに、冷たく鋭利だ。
しかしどこか瞳の奥に揺れるものがあった。
男は振り返り、後ろの女性に一言二言呟く。
わずかな沈黙の後、女性は前に出て赤子を抱き上げた。
それを確認した男はそのまま屋敷に火を放ち、暗殺者たちは証拠を残さず去って行く。
忌子は最後まで静かに抱かれていた。
こうして忌子は日の光の届かない地下室から、日陰者の裏稼業の世界へと産声を上げたのだった。
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