第7話「その男、魔族の女と共に往く」

数時間が経ち、やっとリズリー商会に着いた。

代表の部下に会い、大公閣下の事と魔族の事を話す。


「ふむ、無理矢理隷属にするとは・・・あの若造も落ちる所まで落ちたな」

「暫く俺が面倒見るんで、向こう《アダムズ》のギルドで登録を出来易い様に紹介状とか用意してくれないか?俺のは俺のだけの紹介状しか受け取ってないから」


「分かりました。少々お待ちください」と言われ、待っている間にエルリオ・リズリーさんに魔族の隷属の事を聞いてみた。


「解除の方法か」

「えぇ、自分が聞いた事があるのは奴隷の主人の書き換え――――上書きなどだけなので」

「成程・・・・ミュレー」


エルリオ商会長に呼ばれた商会員のミュレー・ヴァスロが来た。


「お呼びでしょうか?商会長」

「あぁ、確かお前さんの実家は奴隷商を扱っているんだったか?」

「そうなんですか?」

「えぇ、ヴァスロ奴隷商会・・・主に犯罪奴隷のみを扱う商会です」


隷属の破棄について聞いてみた。


「そうですね・・・通常であれば破棄する事は一応出来ますが・・・常識的に考えればあり得ません。万が一・・・緊急時の時のみで尚且つ信頼を築いていれば我々のような奴隷商人が責任を持って破棄もしくは解除が出来ます」

「上書きは特殊な事情・・・で合ってたか?」

「えぇ、勿論です。話を聞く限り別の奴隷商からそちらの魔族を購入したようですし―――」


ミュレーが話している途中で―――エルリオ商会長の元へ別のリズリー商会員が小声で話す。


「・・・ふむ、そうか。分かった。彼にも話してくれ」

「分かりました。」

「何か調べ物を?」


俺の目の前で一礼するその彼はバルバと言う商会員で平民らしい。


「実は・・・そちらの魔族の奴隷ですが・・・・内々的に調べた所―――違法奴隷商から購入した履歴が発見しました。今現在大公閣下のご子息にアダムズ国王がじきに取り調べを進めるそうです」

「・・・さっきの話、本当なのかい?」

「・・・はい」


俺が聞き返すと、その魔族は頷く。


「私があの男に隷属契約をさせられたのは――――」


魔族である彼女の名前はミュー、元は魔族を統べる王―――魔王ディーモ・デュモンズの執事兼宰相の孫になるらしい。


彼女が奴隷として違法奴隷商に売られていた理由は―――魔族の統率者が亡くなった事による魔族の均衡の瓦解――――要は仲間割れだそうだ。


「私は代々サキュバスの家系として生まれるんです。本来、サキュバスは性行為などを目的として人間を誘拐する事が割と有名ですが・・・私の母方の一族であるデュレス公爵家は"愛"を知り"愛"を貰い"愛"を与える事で人間との密かで細やかな交流を勤しみました。ですが――――」


一人の魔族により、裏切られ、更にその魔族が他の魔族との結束を駄目にしたと言う。


「ふむ、もしやその魔族によって君は違法奴隷商に無理矢理売られたと言う事だね?」

「はい。私の祖父は勇者に果敢に挑んで亡くなったので正式に私が公爵家を継ぐはずでした」


そしてその魔族に騙されて誘拐され、そして奴隷として売られたと言う。


「・・・魔族って確か人間との交流を望む連中も居るのか?」

「えぇ、魔族は力と魔力で腕試しをして名誉の死を誉とします」


確かに、あの時戦った時にヤツはこう言った。


『ふっ・・・魔王様も満足する程の力だ。貴公らと一戦交えて良き経験となった』


そしてその後に戦った魔王もかなり好戦的だった。

それ以前に魔王は『自分の役目を知っている』と言っていた。


「・・・そう言えば、魔王国の魔族は今荒れているのか?」

「・・・はい、姫様は魔王様に言いつけを聞いたようで」


魔王の娘である姫様とやらは―――生きている。

まぁ、魔王と一戦交える前に勇者と二人で話し合って決めた。


「どこに居るかは聞いていないんだよな?」

「えぇ」


ミューは蚊の鳴くような声で頷く。


「・・・ミュレーさん、この場に居る商会員全員を下がらせて貰っても?」

「・・・!分かりました。会長、お二人とご一緒にお願いします」

「分かった。行こうか」


応接間とは別の・・・執務室に通された後、エルリオ商会長は防音効果をもたらす魔法を張り巡らす。


「さて、娘には手紙で書いてあるから安心してくれ」

「王都エデンにある学園で学ばれているんですよね?」


取り敢えず――――


真実を話す。


「えっ、あの勇者に匿って貰っているんですか?」

「あぁ、魔王は俺らに出会う前から既に身内に狙われているのを察知したんだ。だから俺らに倒されて俺がメンバー連れて先に出た後に魔王の娘である姫様を勇者が連れて召喚した国の宰相のご実家に身を潜ませてるんだ」


俺と勇者達を召喚した国の王は出会い頭で怪しさ満点だったし、だったら魔王討伐にも国の王が悪い方に絡んでいる可能性を踏まえて行動したわけだ。


「成程、つまり国王率いる陰に潜んでいる一派は左翼繋がりで複数の魔族と手を組んでいるって訳か」


そう、そうとなれば魔王の娘は権力あるし、邪魔な存在にもなる。


「あの姫様を連中は如何にかしないと国土の半分をも支配出来無いだろうしな」


ミューは魔王の娘の安否に安堵したのか少し落ち着いていった。


「・・・そうだ、であればアダムズに行くんですよね?」

「あぁ、俺の為に装備品一式を造った礼も兼ねて会いに行くんだ」


取り敢えず準備は必要かね・・・


「(そうだ、今の内にスキル確認するか)スマン、空いている部屋あったら借りたいんだが」

「構わんさ、あの部屋に案内しなさい」

「畏まりました」

「ミュー、お前は一度、ここのメイドさんに色々と世話になって貰いな」

「わ、分かりました」


夕暮れ過ぎの時―――食事の場でエルリオさんから話を切り出してきた。


「娘から手紙が来た。アダムズでは半休を利用して暫く寮に居るそうだ」

「そうですか、であれば半休の日より前日までにアダムズに着けば問題ないですね」


夜間の時間帯にて――――


「ジーク様」

「ん?どうした?ミュー」

「あの・・・独りで居るのは寂しいので一緒に居て貰っても宜しいでしょうか?」


ミューは上目遣いでそう言ってきた。

俺は息を吐き


「分かった。俺の隣に来な」

「ありがとうございます」


今回は特別に一緒に寝る事にした。

翌朝―――朝食も共にして貰った。


「ふむ、であればこの時間表でなら乗合馬車はくるよ」

「ありがとうございます」


時間表を確認して


「それじゃあ荷物纏めて行くか」

「はいっ!」


ミューは明るく返事をしたのだった。

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